約 1,861,611 件
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1754.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Time enough for Love 第5章 妹達(シスターズ) 14. 「The Princess in the High Castle」 17000号から聞かされた話の中身は、俺の予想をはるかに越えていた。 話を聞きながら、俺は自分が震えているのに気が付いた。 怒りも、恐怖もなかった、はずなのに……。 なのにガチガチと、奥歯がなるような震えが止まらない。 なにかの悪い夢? 夢を見ているのか? ――ならこの後、意識が反転して…… ――気が付いたら下宿のベッドで…… ――夢か……なんてつぶやいて…… ――ほっとするはず…… ――なんだろうが…… 俺の全身から流れる汗は、冷たく、より冷たくなっていく。 部屋の湿気った空気が、また更に湿度を上げた。 周囲の壁から聞こえる、鈍い低音の空調の音が、まるでキャパシティダウンのように、俺の脳裏に響いてくる。 音が気になって、何も考えられないって、こんな感じなのか……。 どこから入り込んだのか、天井の蛍光灯に、虫がジジ、パチン、ジジ、カチンと飛びかかる音がする。 雑音が気になって、少女の話に入り込めない。 ああ、違う。 違うんだ。 俺は……そんな話を……聞きたくないんだ。 目の前の現実ってヤツから……逃げ出したいんだ。 そう思ったとき、俺は腕組みをし、足を組んでいたのに気が付いた。 それは、相手を拒絶する無意識での意思表示、だと前に聞かされたことがある。 話に入り込めなくて、なにか他人事のように俺を見ている俺がいて……。 「――悪い、もう一度、そこを説明してくれないか」 「はい、何度でも繰り返します、とミサカは貴方の理解力の無さに、あきれながら説明を続けます」 理解力じゃないんだ、と俺は叫びたかった。 そんな話、信じられねぇって叫びたかった。 そんなことあってたまるかって叫びたかった。 耳を塞いで、この場から逃げ出したかった。 俺が認めたくなかったのは……。 目の前にあって、すでに進行中で、目の前のこの子は死刑執行を待つ身で。 そして俺は今、この子を……助ける手立てが……わからねぇってことで……。 どうしたらいいんだ?上条当麻。 考えろ! あの時みたいに考えろ! 美琴達を救い出したときのように考えるんだ。 あの時お前は『妹達(シスターズ)』と御坂美琴を救ったんだ。 だからもう一度お前の手で、救うんだ。 救えるのは、お前しかいないんだ……。 わかった、わかっているよ、わかっているとも。 そうさ、わかっていても、今の俺には何も思いつかない。 ああ、気分が悪いよ。 何もかも気分が悪いよ、全く。 この話にも、黙ってそれを聞くしかない俺にも、そして何も考えられない俺にも……。 ――なあ美琴、俺は一体どうしたらいいんだ? 今まで俺は自分がこんなに無力だったとは思わなかったよ。 代償はいろいろ払ってきたけれど、それでも最後は、 何1つ失うことなく、誰1人欠かすことなく、俺は全てこの手で救ってきた。 だけど今、俺はその夢を守れなかったんだ。 お前の周りの世界を世界を守れなかったんだ。 失くしてしまった『妹達(シスターズ)』。 失くしてしまった俺の夢。 これも、俺の『不幸』なんだろう。 俺は、こんなにも無力だったんだ。 俺が救えなかった命。 俺の右手から零れ落ちていった『妹達(シスターズ)』。 ――自惚れていたんだ。 ――救ったつもりでいたのは、結局は俺の小さな自己満足にすぎなかったってことだ。 ――結局、俺は……。 ――なら今はせめて…… 「17000号、頼みがあるんだが……。 死なせてしまった『妹達(シスターズ)』の墓って、どこにあるんだ? せめて……アイツ等のところへ連れて行ってくれないか……」 そこにいたのは、現実という強敵に打ち倒され、敗北を喫した『元』ヒーロー。 その姿は、かつて誰も目にした事の無い、自らの『幻想をぶち殺された』上条当麻の姿だった。 -*- -*- -*- 夏が過ぎ、イギリスの短い秋が終わろうとする頃。 ここはロンドン・キングスクロス駅5番線。 東海岸線、午前10時発・エディンバラ・ウェイヴァリー駅行きHST225『フライング・スコッツマン』。 第二次大戦中、ロンドン空襲の最中でさえ定時発車を守り続けた、英国を代表する特急列車だった。 英国国鉄の落剥・民営化とともに、今はかつての栄光の残滓にすぎない、やや古ぼけた列車になろうとしていた。 上条当麻とミサカ17000号は、その車中の人となっていた。 ロンドンから終点、エディンバラ・ウェイヴァリー駅までおよそ4時間半。 そこからレンタカーで、目的地、スコットランド・ガラシールズへと向かう2人だけの旅。 学園都市の出先研究機関があり、かつて『妹達(シスターズ)』の調整が行われていた施設があった。 今は学園都市の混乱に伴い、ここの施設は閉鎖され、他の場所に統合されている。 それにより、『妹達(シスターズ)』関連施設も、17000号の調整を最後に廃止され、他の『妹達(シスターズ)』とともに再び学園都市に引き取られる「予定」であった。 しかし、学園都市側の受入準備の検討中という名目でその手続きは一向に進められず、ミサカ達は放置同然の扱いを受けた。 調整機関もすでに閉鎖され、学園都市側に放置されたミサカたちは次々とその寿命を閉じていった。 その惨状に気が付いた『冥土帰し』や親船、貝積両理事らの奔走で、かろうじて17000号だけが御坂旅掛に引き取られることとなったのだった。 あの日、旅掛の事務所で、これまでの事を17000号が上条に教えた時、彼はただ拳を握り締め、涙を流すしかなかった。 かつて一方通行と戦い、救い出した『妹達(シスターズ)』が、なぜまたこんな目に合わなければならないのか。 御坂美琴の周りの世界を守ると言った自分が、こうなるまで何も出来なかったことが情けなくて。 そんな重荷を背負った美琴が愛おしくて、何とかしてやりたくて、支えてやりたくて。 そんな何も出来ない自分と、それを受け入れる自分の弱さと偽善が許せなくて。 何1つ失うことなく、誰1人欠かすことなく、全て救って帰るという自分の夢が破れたことが悲しくて。 上条はずっと涙を流し続けた。 やがて事務所に戻ってきた旅掛が、そんな上条の肩を軽くぽんぽんとたたき、優しく声をかけた。 「そんなに自分を責めるものではないよ、当麻君」 ソファーにどっかりと腰を下ろし、懐からタバコを取り出して火をつけながら、言葉をつないだ。 「誰しも皆弱い人間さ。 この私だって、この現実には抗うすべが無かった。 大人の私でさえそうなのだから、まだ若い君が気にすることは無い」 半ばあきらめかけたような口ぶりで、白い煙を吐いた。 遠くを見るような目をしながら、旅掛はタバコを吸い続ける。 「私とて、世界中の闇に関わる仕事をしてきた。 世界に足りないものを示すことで、その闇を少しでもなんとかしようと思ってね。 だが、実際にはうまくいかなかったことの方が多い。 助けることが出来なかった人の顔が、今も脳裏から離れないよ」 ふぅーっと、吐き出すように、旅掛がタバコの煙を撒き散らす。 その姿に、いつしか上条は自分を重ね合わせていた。 旅掛は話を続ける。 「これまで何度、拳を握り締め、涙を流したか……。 私だってヒーローになりたかった。 目の前の全てを救ってやりたかったさ。 だがね……」 旅掛が上条をまじろぎもせず見据えた。 その視線を、上条は正面から受け止める。 彼の次の言葉を待つ。 「――やっぱりこれ以上はやめておこうか。 人間は他人の経験からほとんど何も学びはしないんだ。 ここから先は君が自分で探していくことだ。 私は君にお節介をするつもりはないからな」 「――そうですか……」 上条の顔に、落胆の表情を見ながら旅掛が続けた。 「大丈夫、君なら出来るよ。 過去のことは、終わったことにとらわれるな。 そこから学んでいけばいい。 そして目の前のことから逃げないことだ。 今は負けでも、最後に勝てばいいじゃないか。 その時、出来ることからはじめよう。 君はまだ若い。 いくらでもやり直しをする時間はあるじゃないか」 その言葉は、上条の何かに触れたようだった。 先程までの情けない顔に生気が戻ってきたようだ。 -*- -*- -*- 「ところで1つ相談なんだが……」 旅掛が先程と違った雰囲気で、唐突に話を変えた。 「私は、このことを美琴に言うべきかどうか迷っている。 あの子のことだ、この事を知れば、間違いなくショックを受けるだろうし。 その後、娘がどうなるのか、どうするのか、ちょっとわからないんだ」 先程までの男の顔が、娘思いの父親の顔になる。 「そこで君の意見を聞きたくてね……」 とぼけた顔の旅掛が、タバコを吸い続ける。 上条は旅掛の顔をじっと見つめていた。 「そうですね。俺もどうするのがいいか、わかりません。 でも……」 上条は、美琴の笑顔を思い出していた。 「――でも美琴なら、なにがあっても自分のすべき事を探して、立ち上がる様に思えるんです。 なにか障害があっても、それを乗り越えようとすると思うんです。 今の美琴なら、『妹達(シスターズ)』のために、俺と一緒に戦ってくれると思います。 なんとなくなんですけどね」 そう言って、照れたように頭をガシガシ掻いた。 「君は、彼女の父親の前で、そんな惚気を言えるとは、なかなかいい根性をしているじゃないか」 旅掛がそう言うと、テーブル越しに上条の胸倉をつかんで引き寄せ、不敵な笑みを浮かべながら、タバコの煙を吹きつけた。 上条が吹き付けられた煙で、ゴホゴホとむせる。 「君が娘の恋人だとは、父親として幸せなんだか不幸せなんだか、よくわからないが……」 吸っていたタバコを灰皿に擦り付け、つかんでいた手を離す。 開放された上条が、中腰になっていた腰を下ろし、息を整えていた。 旅掛が両手をテーブルにつけ、上条を真剣な顔で見据えた。 「私の決心も付いたよ。 いつまでたっても父親ってのは、娘のことになると冷静でいられないものなんだな。 やはり君は、私に足りないものを示してくれたようだ。 ありがとう、当麻君」 そう言って上条に向かい深々と頭を下げた。 「いや、そんなつもりじゃ……」 ないんですが、と言いよどむ上条の顔に、喜びと恥ずかしさが浮かんでいる。 その純粋な感情に触れ、旅掛は久しぶりに暖かな気持ちを味わった。 「なにかお礼をしたいんだが、希望はあるかね」 旅掛が再びタバコを取り出して火をつけた。 そう聞かれ、恥ずかしさで俯いていた上条が、顔を上げた。 旅掛から向けられる真剣な眼差しに、上条は、同じくその視線を外さぬよう真剣な面持ちで、おずおずと答える。 「――俺、妹達(シスターズ)の墓に行ってこようと思ってるんです」 上条のその顔に、なにか感じるものを汲み取った旅掛が、白く口から煙を吐いた。 「そうか、行ってくれるか。ありがとう。きっと彼女らも喜ぶと思うよ。 場所はこの子が知っているから、案内してもらうといい。 身分証明書も免許証も持たせてあるから、車の運転だって出来るし、心配ない。 なにもかも全部彼女に任せてしまえば問題ないさ」 上条が旅掛に頭を下げる。 「ありがとうございます」 「なに、気にすることは無いよ」 旅掛がもう一度父親の顔に戻る。 「そうそう、彼女にはちゃんと『御坂美笛』という名前があるんだ。 もっとも、私が名前をつけたのは今のところ、彼女だけだがね。 いずれはシスターズ全員にちゃんとした名前をつけてあげるつもりだよ」 「わかりました。なら……美笛さんのお世話になります」 「ああ、後は君たちで決めるといい……」 ――いずれにせよ……と言いながら旅掛は上条の横に座る17000号「御坂美笛」に目を向けた。 「『娘達』のことは、よろしく頼むよ」 上条も隣にいる彼女を見た。 上条の横に座っていた17000号「御坂美笛」は、上条と旅掛のやり取りを見ながら、顔を赤らめていた。 そして上条からの視線を感じたとたん、俯いてモジモジしはじめた。 それはまるで、王子様が、高い塔に閉じ込められたお姫様を救いにやってきた時であるかのように。 それを見た旅掛は「これは……予想以上か……参ったな……」と呟き、上条を見た。 上条は彼女の様子に、「うう……これは……不幸な予感が……」と呟き、頭を抱えるだけだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Time enough for Love
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1157.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こいぬのおくりもの 十月のある穏やかな日曜日。残暑が終わりを告げ、ようやく秋の足音が聞こえてくる季節。 上条当麻は昼寝にちょうど良い季節だと言わんばかりに、貴重な高校一年生の日曜日を惰眠をむさぼることで過ごしていた。 以前なら同居人である暴食シスターが夕食の用意をせかすためここまでぐうたらなことはできなかったのだが、今ではそんな彼女も故郷であるイギリスに帰ってしまっている。 結果として上条の怠惰な昼寝を妨げる者は誰もいない。 とはいえ時刻はもう夕方、日も落ちかけなので昼寝というよりそのまま夜寝になりそうではあるのだが。 そんなとき上条の携帯が激しく鳴り響いた。 やたらと大きい音。普通の携帯の着信音の何倍もするほど、むしろベル式の目覚まし時計並の大きな音だ。 「……ん? むにゃ」 さすがの上条もこれには起きざるをえない。寝ぼけまなこでのろのろと携帯電話に手を伸ばし、発信者も確認せず着信ボタンを押した。 「もしもーし。上条さんの意識はただいま留守にしておりまーす。ご用の方はピーとわたくしが言ったら――」 そのままふざけたセリフを口にした上条だったが、電話口から聞こえてくる聞き覚えのある声、しかもそのただならぬ様子に一気に上条の頭は覚醒した。 「……御坂、どうした! 何があった!」 『と、当麻、助けて、助けて……』 電話口から聞こえる御坂美琴の声。その声は明らかに泣いていた。 「落ち着け御坂。落ち着いて何があったか話してくれ」 『死んじゃう。血が……いっぱい……で……ハァハァ言ってて……大変で……』 「血? いっぱい? くそ……なんかよくわかんねえけど、場所はどこなんだ! 今すぐ行ってやるから待ってろ! 絶対諦めるんじゃねえぞ!」 何が起こっているかはわからないが悠長に話している暇はない、そう判断した上条は急いで着替えを済ませて家を飛び出した。 絶対能力進化の実験が中止になった今、一方通行が美琴や妹達に危害を加えるはずはない。だが美琴は明らかに「死」や「血」などといった尋常でない言葉を口にしていた。 ではいったい美琴の身に何があったのだろうか、死に瀕しているのは誰なのだろうか。 間に合ってくれ、上条は必死にそう願いながら美琴の待つ場所へ走り続けた。 「御坂! 無事か!」 上条は美琴から連絡を受けた場所、大通りから少し外れた路地裏にあるビルの影にやってきた。 そこには通りに背を向ける格好で地面に座り込み、肩を震わせる美琴の姿があった。 その様子に言い知れぬ不安を覚えた上条は美琴を強引に振り向かせた。 「御坂、何があったか知らないがもう大丈夫だぞ、さあ、何が……あ」 上条は言葉を失った。こちらを向いた美琴の顔は涙で汚れており、彼女が着る常盤台の制服のブレザーは血だらけだったからだ。 「当麻、助けて、どうしたらいいの、私、私……」 美琴は虚ろな目でこちらを見ていた。 美琴の身に何かが起こった? そう思った瞬間、上条はカッと頭に血が登った自分がいるのを理解した。しかしまずは状況判断だ、冷静にならなければいけない。 上条はブンブンと頭を横に振ると、一度深呼吸をした。そして暗がりの中の美琴をもう一度よく見てみた。 すると美琴自身の体にはなんら乱暴されたような跡などはなく、ただ血で汚れているだけだと気づいた。 上条は期待通りの返事を美琴が返すことを願いながら、美琴に声をかけた。 「御坂、お前、なんともないのか? そ、その、乱暴とか、されてないか?」 こくりとうなずく美琴。 「そうか」 美琴自身が無事なことにひとまず安堵のため息をついた上条だったが、今度は美琴が何か小さなモノを抱きかかえていることに気づいた。 「御坂、それは?」 上条に抱きかかえてるモノを指さされた美琴ははっと息を呑むと、縋り付くように上条に近づいた。 「そ、そう、これ、こののこの、この子! この子大変なの、なんとか、なんとかして当麻!!」 「お、おい。落ち着け、とりあえず落ち着け御坂、な?」 鬼気迫る美琴の様子に上条は圧倒され、なんとか彼女を落ち着かせようとした。だが美琴はそんな上条を気遣う様子もなく、必死に言葉を繋げながら上条に迫り続けた。 「だって、だだだって、この子、このままだと、し、死んじゃう、だから……だから……」 「死ぬって……この子……?」 上条は美琴が抱きかかえているモノをよく見た。 それは怪我をして血だらけの子犬だった。美琴のブレザーが血で汚れた理由はこれだろう。 上条の表情がさっとこわばった。 「御坂、どうしたんだよコイツって、そんなこと聞いてる場合じゃないな。とにかくなんとかしないと。けど、学園都市に獣医なんてもんが……」 病院にやっかいになることが多い上条は、自然と学園都市にある病院の位置に詳しくなっている。しかしそんな上条の脳内地図にも獣医の場所までは記録されていなかった。そもそも学園都市に獣医がいるのかさえ疑わしい。 「人間も動物も命を助けることには変わりないよな。背に腹は代えられないし……よし」 上条は美琴の頭に手を置くと、すっと立ち上がった。 「御坂、行くぞ」 きょとんとした美琴は首を傾げた。 「え? ど、どこに?」 「話は後だ、とにかくソイツを助けたいんだろ? だから病院行くんだよ」 「病院って?」 「リアルゲコ太先生のとこだ。さあ行くぞ。しっかりソイツ抱いてろよ、落とすんじゃねえぞ」 「う、うん」 二人は冥土帰しが勤務する病院へ向かった。 「うーん、確かに変わった治療もよく行うけど、ここは一応人間の病院なんだよ?」 「そこをなんとか、お願いします! コイツを助けて下さい!」 十分後、上条は病院前に呼び出した冥土帰しに頭を下げていた。 「うーん」 冥土帰しはチラと、美琴と彼女の抱いている犬を見た。 美琴は顔を伏せたままだったが震えている肩からその表情は容易に想像できた。 また抱いている犬があまり楽観視できない状態だというのもわかった。すぐに治療しなければならないだろう。 冥土帰しは再度上条を見た。 上条は必死な形相で自分に頭を下げ続けている。 「わかったよ」 冥土帰しは頭をかきながら呟いた。 その声に上条と美琴はばっと顔を上げた。 「本当ですか!?」 「ああ、動物も人間も、命は一つだろ? それに君はお得意様だし、君の彼女をこれ以上泣かせるのも気が引ける」 「え、いや、その、俺と御坂は別に――」 「さ、おしゃべりはここまでだ。そこの裏口から入って奥のエレベーターを使って上に上がってくれ。さすがに病院だから普通に子犬を入れるわけにはいかないからね。けどあのエレベーターなら誰にも文句は言われない。さあ、急ぐんだ」 冥土帰しはあわてた上条の抗議をさらっと流すと病院内に入っていった。 冥土返しの言葉に頬を染めていた美琴と顔を見合わせうなずいた上条は、彼女を伴い指示された裏口に向かった。 冥土帰しに指定された階にあった手術室の扉が閉められた。 ここから先は冥土帰しの戦いだ、自分たちはただ彼を信じて待つだけ。 そう思いながら、上条はうつむいたまま待合い者用の長椅子に座る美琴の手をそっと握った。その手は小さく震えている。 上条は大きくはないが努めて明るい声を出した。 「心配するな、カエル、いやゲコ太先生を信用しろよ。知ってるだろ、あの先生は本当にすごいんだ。俺がこうして五体満足で生きてられるのもあの先生のおかげだ、アイツだってきっと治してくれる」 「うん」 だがうつむいたままの美琴の手は相変わらず震えたままだ。 上条は心持ちその手を握る力を強くした。 「それにさ、犬って人間が思ってるよりも結構生命力あるんだ。だから大丈夫、もう泣くな、な」 上条はハンカチを取り出すと、そっと美琴の涙を拭った。 「……ありがとう」 美琴は絞り出すような声を出した。 当然とはいえ、いつにもなく殊勝な態度の美琴を見ながら上条は小さくため息をついた。 しばらくして美琴が泣きやんだのを確認した上条は彼女に話しかけた。 「なあ、少しは落ち着いたか? だったらそろそろ何があったのか教えてほしいんだけど。いけるか?」 こくりとうなずいた美琴は上条を見つめた。 「うん。アンタさ、最近爆弾魔がこの学園都市で騒ぎ起こしてるの知ってるわよね?」 「ああ、結構な騒ぎになってるからな。直接事件現場に居合わせたことがないから詳しいことまでは知らないけど、確か爆弾を作る能力者が無差別に爆発事件を起こしてるってんだろ? で、犯人のレベルが低いから死者が出てないのが不幸中の幸いだって話だったよな」 「うん、正解。もうちょっと詳しく言えば犯人の能力はレベル2の『化学実験』(エクスペリメント)。材料さえあれば活性化エネルギーをいじってそこから自由に化学物質を合成できるっていう、地味だけど結構汎用性の高い能力なの。言うなれば超能力による錬金術ってところかしら。で、高レベル能力者になるほど合成できる物質の種類に制限がなくなったり、生成物の純度が高くなる。ただ、今回の事件の犯人は低レベルってことで単一物質しか合成はできなかったのよ。けれど今回はその生成物がまずかった。知ってるわよね、TATP(過酸化アセトン)って?」 「ああ結構有名だしな。でもマジかよ、それって……」 「そう、よく知られた爆薬の原料。で、ソイツは材料となる過酸化水素とアセトンを常に持ち歩いてて気が向くままにあちこちでTATPを作って爆発させていたってわけ。不純物が多いから威力は低くなってたんだけど。これが事件の概要」 上条は面倒くさそうに頭をかいた。 「……くだらねえ奴だな。もしかしてソイツ、そんな馬鹿なことやってれば自分のレベルが上がるとか勘違いしてたんじゃねえだろうな」 「動機なんか知らないわよ。行動だけ見てると愉快犯みたいだけどね。とにかくソイツはあっちこっちで騒ぎを起こしまくっていた。それで、悪さが過ぎるってことで警備員に捕まったのよ。ついさっきね」 「なるほどな」 上条は路地裏に行く途中、多数の警備員がいたことを思い出した。 物々しい装甲車があったことからも爆弾犯人に対する装備だったことは間違いない。彼らの慌てた様子からすると本当に犯人を逮捕した直後だったのだろう。 「話の流れからすると、もしかしてあの子犬はその捕り物のときに巻き添えを食ったってことなのか?」 美琴はこくりとうなずいた。 「察しが良いわね。そう、危険だからって捕縛活動が始まる前に人間は基本的に避難してたんだけど、さすがに野良犬までは手が回らなかった、当然だけど」 「それで、そこを通りかかったお前が被害にあった子犬を偶然助けた、ということか?」 「うん」 「念のために聞くがお前があそこにいたのはただの偶然か? 捕り物に参加したなんて馬鹿なこと言わないよな?」 「言わないわよ、本当にあそこにいたのは偶然。暇だったから、ぶらぶらとショッピングしてた帰り」 上条は疑わしそうに美琴を見た。 「本当か?」 「信じなさいよ。あれだけ警備員がいるのに私が何かしたら邪魔になるでしょ。私一人だったら犯人なんてぶっ倒してやるけど」 「あのな、それを俺は心配してるんだ。普通の能力者相手ならともかく、TATPなんて爆発物相手ならお前の能力なら大怪我するだけだろ。異能の力なら無条件に無力化する俺とは違うんだぞ、そういう無茶は止めてくれ」 上条の言葉に反応した美琴は、ずいと上条に詰め寄った。 「何よ、アンタ私を馬鹿にしてるわけ? そんな奴を相手にしたときの応用力が私にないって言うつもり、仮にもレベル5の私に向かって? 対処法ぐらいいくらでもあるわよ」 「落ち着けよ。応用力とかそういう問題じゃなくて、危ないことに首突っ込むなって言ってるんだ」 「いっつも危ないことにしか首突っ込まないアンタに言われたくないわよ。偉そうに人のこと心配する前に自分、の……心配? アンタ、私の心配、して、くれたの?」 美琴は自分の言葉にはっとして声を詰まらせた。 その様子に上条はつまらなそうに口を尖らせた。 「当たり前だろ。俺がお前の心配するのが、そんな悪いのかよ」 「そ、そんなこと、ない。ありがとう……」 「お、おう……」 急にしおらしくなった美琴の態度に、辺りは妙な空気に包まれた。 空気を変えるため、美琴はこほんと咳払いをした。 「え、えと、とにかく、その犯人を捕まえるときの騒ぎで大怪我してたあの子を見つけたんだけど、そこで私の思考が完全にストップしちゃったのよ。自分のことならともかくあんな大怪我した犬を見たこともないし、助けたいけどどうしたらいいのかもわからないし。それで、気がついたらアンタに電話してた。でも良かった、アンタがすぐに出てくれて」 「出るに決まってるだろ。あんなバカでかい音がするんだ、昼寝してたのに一発で目が覚めた」 「へえ。じゃあアンタの携帯、あの着信音に設定してあげて正解だったわけね」 美琴は楽しそうに言ったが、一方の上条は面白くなさそうな顔になった。 「まったく、なんなんだよあの着信音は。勝手に人の携帯いじってお前からの着信音だけあんな傍迷惑な音に変えやがって。いったい何考えてんだ」 「アンタが私からの連絡をいっつも無視してるからでしょ。ああでもすればさすがに気づくと思ってね。実際今日だって気づいたでしょ?」 「そりゃそうだが。ならなんでお前からの着信だけあれなんだよ、しかもメールまでお前からのだけバカでかい音」 「他の人のまで変えたらアンタの感覚も逆に麻痺するでしょ。アンタは私からの連絡にだけ気づけばそれでいいからよ」 「……自己中」 「何よ」 「いーえ、なんでも」 とぼける上条にそれをにらみつける美琴。 だが美琴はすぐに上条をにらみつけるのを止めた。 「……まあいいわ。えっと、どこまで話したんだっけ? そうそう、アンタが電話に出てくれたってとこね。とにかくわけがわからなくて気がついたらアンタに電話して、アンタは来てくれた。それから後はアンタも知っての通りよ」 「なるほどな。怪我した子犬、か。まあなんにせよ良かったぜ、な」 「何が?」 「もちろんあの子犬が助かって、だよ。そんな下らない奴のせいで子犬の、小さな命がなくなるなんて絶対に許せねえ」 上条の言葉に美琴は表情を暗くした。 「で、でも本当に助かるかはまだ……」 「大丈夫だって、何度も言うけどあの先生は本当にすごいんだ。絶対助けてくれる!」 「う、うん」 「それからさ、ちょっと話はずれるけど、お前が電話をかけてきてくれたことも結構嬉しかったんだ」 「どうして?」 「お前が俺を頼ってくれたってことがな。なんでも一人で抱え込むお前が俺を頼ってくれたってことと、後、白井とかを頼ったっていいのに俺を頼ったってことも、良かったことの一つだな。上条さんも男だし、女の子に頼られて悪い気はいたしません」 そう言うと上条は照れくさそうに頬をかいた。 一瞬きょとんとした顔をした美琴だったが、何かに気づいたかのようにぽんと手を叩いた。 「そっか、黒子に頼めば良かったんだ。そうすれば一瞬で病院にも来られたし。なーんだ、わざわざアンタ呼んで損した」 「お、おい。それはいくらなんでも上条さんのガラスのハートを傷つける発言ですよ!」 憮然とした表情になった上条を見て、美琴はちろりとかわいらしく舌を出した。 「なーんて嘘」 「へ?」 「アンタが言ったんでしょ、何かあれば自分を頼れって。だから、その、私は何かあったときはその、あ、アンタに頼ろうって、その、決めてるから。それで、あのとき、アンタのこと以外頭に浮かばなかったのよ。うん、私が頼るのは、アンタだ、けだから……」 「そ、そうか、そりゃ光栄だな、うん……」 「そ、そうよ、光栄に思いなさい、光栄に……」 美琴が呟くように漏らした言葉に、再び待合いは妙な空気に包まれた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こいぬのおくりもの
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1432.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side ―あれから一週間― ―――そうこうしている内に、やっと上条の高校の学生寮が見えてきた。 日も落ちてゆき、次第に辺りも暗くなり、今日という一日ももう終わっていく。 そこで上条は今日という一日を振り返る。 今日は朝からいいことはなく、久々に不幸なことばかりだった。 朝は、今隣で何やら鼻歌を歌っている彼女とのキスシーンを舞夏に見られた。 午前中の授業から楽しみだったはずの昼休みでは、元同級生で友人の土御門と青髪ピアスに朝でのことや彼女の存在がバレてボコられた。 その後は後で、昼間の二人から元同級生達に留年や彼女等諸々のことがバレて襲撃受けた。 そして極めつけには今隣を歩く彼女と単なる追いかけっこをするつもりが、命懸けを追いかけっこをするはめになった。 本当に、不幸で疲れた一日だったと振り返る。 しかし、不幸ながらもこの先についての光明を得ることもできた一日。 そう思うと、なかなかに悪くない一日であったようにも思えてくる。 上条はちらりと隣を歩く美琴に視線を移した。 実は先ほど、歩く速度を少しだけ速めたことで遅れた彼女が、途中から隣に移動してきた彼女を気遣い、少し歩く速度を落としていた。 その事実に知ってか知らずか、当の美琴は何やら考え事をしているらしく、頭に手をあて『あれ…じゃないわよね?じゃああれかな?いやでも…』などと上条には意味不明なことをブツブツ呟いている。 超能力者で元常盤台のお嬢様のお考えは未だによくわからない。 (ま、いいか。こいつはこいつで最近楽しそうだし) 美琴が魅力的な女の子であることは昔からわかってはいた。 わかってはいたが、上条はここ最近においてその魅力にさらに磨きがかかっているように感じていた。 再開した一週間前にも感じたことなのだが、それでもあの時とも比べものにならない。 ……いや、今現在の隣の美琴の方が本来の彼女なのかもしれない。 今思えばあの時の彼女は今と比べて少しやつれていた。 それは恐らく長い間上条と会えなかったことによるストレスによるものだろう。 しかし一週間前、美琴は念願の上条との再開を無事果たし、今日まで二人の生活を満喫している。 大好きな人、愛する人といつも一緒にいられるということはこんなにも女の子に変化を与える。 敢えて言うのであれば、髪や肌に艶がでてきて、上条が何気なしに美琴を見たときには妙にドキッとくる時さえある。 まだ子供っぽさが残っていた行動や雰囲気、そして身体の方も、徐々に大人のそれに近づきつつあるのだ。 時は確実に進み、彼女はそれにつれ、上条が気がつかないうちにどんどん変わっていく。 (じゃあ、俺は…?) その時間の流れにのって、自分もまた変わっているのか。 時々上条は、自分だけが変わっておらず、変わっていく世界から取り残されていってるような錯覚に襲われることがあった。 そのたった一つのことが苦しくて、思い悩んでいたこともあった。 しかし、変化というものは、成長期の外見の変化ならいざ知らず、それ以外の変化については大抵の場合、勝手に起こるものではない。 変化は外からの刺激を受け、自分から何らかのアクションを起こして訪れるもの。 何かのきっかけがあるから人は変わってゆく。 それが良い方向への変化なのか悪い方向への変化なのかは別にして。 だから上条は今日を通じて一つの決意をした。 変わりたい、自分に何らかの変化を起こすなら、考えるだけでなくそれを実現することができるような行動を起こそうと。 それを支えてくれるはずの人なら、今隣を歩いている。 きっと彼女なら… やるべきことが見えてからはモヤモヤしていた心の中がスッキリした。 心の中がスッキリしたら、上条は空腹がより感じられた。 あまり防犯の役に立ってるのかどうかわからない学生寮のエントランスを抜け、お世辞でもあまりきれいとは言えないエレベーターに乗りこむと、階のボタンを押して目的の階へ向かってエレベーターは動きだす。 上条の部屋は今や二人のもう目と鼻の先。 上条にとって、夕食も今や一日の楽しみの一つ。 偶には自分でやるとは言いつつも、ここ一週間で毎日、今彼の隣にいる美琴によってその意見は退けられていた。 そのためここ一週間の炊事一切を任せてしまい、多少の罪悪感は感じてはいる。 しかし彼女の料理は贔屓目なしで純粋に美味い。 だからついつい彼女の好意に甘えてしまい、彼女の料理が食べられる夕食も自然と一日の楽しみになった。 エレベーターが止まり、目的の階への到着を知らせる人工の音声が流れると、上条の部屋へはもう一直線。 二人は手を繋ぎ、部屋への直線通路を通り抜けて部屋の前に立つ。 そして最後は部屋の鍵を開け、上条は自分の部屋のドアを開け放った。 同日21時、上条宅 「―――で、何なの?改まって話なんて」 今日はいたって平凡な夕食を美琴は作った。 出来は美琴にとってはそこそこの出来ではあったが、そこはやはり上条はうまいうまいと言いながら美味しそうに食べていた。 夕食を済ませると、彼女は夕食の片付けをして、その間特にこれといってやることのなかった彼はお風呂に入った。 そして美琴が後片付けを終えて、テレビでも見もってゆっくりとしていたところで上条がお風呂からあがると、彼はちょっとだけ外出てくると言って、本当にものの五分ほどで戻ってきた。 そしてその後、上条の方から『話がある』と真剣な表情をしながら美琴に話をもちかけ、今へと至る。 今はベットの前に置かれているガラステーブルを挟んで、美琴はベットにもたれかかりながら座り、上条はその向かい側で座っているという図だ。 「えっとだな……その、なんだ」 「話があるって切り出したのはアンタの方でしょ?そんなおどおどしてないではっきり喋りなさいよ?」 正直な話、彼の方から真剣な表情で話があると言われた時は少し驚いた。 彼は自分に対しては『もっと人を頼れ』、『相談があるなら遠慮なくしろ』などと言うくせに、彼の方から相談事などはあまりしてこないからだ。 そんな彼から、話があるという申し出。 それがどういう内容なのかはまだわからないが、悪い話でないことだけを願う。 「別に話があるっていうか、聞いてもらいたいことなんだけどな。……まぁ、今後のことについて」 「…………今後のこと?」 「あぁ。……って、別に俺がどっかに行くとかの暗い話じゃないし、美琴にとっても悪い話じゃねぇよ。だからそんな顔すんなって。ちょっとした決意表明ってやつかな?」 「あ、あぁ、そうなの?……それを先に言いなさいよ、ばか…」 ボソッと、彼に聞こえるかどうかの声量でそう呟いた。 今後のことについての話。 それを聞いた瞬間は一瞬背筋が凍った。 彼が察した通り、彼がまたどこかへ行ってしまうのではないかと思ったから。 他の人なら冗談で済むかもしれないことも、彼が相手では冗談では済まない。 結果的にそれが表情にでて、彼にそれを感じとったようだが、先にそれは言ってほしい。 一瞬、本気で心配した… 「……それで?その決意表明って?」 小さく『わるい』と、申しわけなさそうにしている彼に話の続きをを促す。 「えっと……笑うなよ?」 「アンタは真剣なんでしょ?なら私はそれに応えて真剣に話を聞く。それだけよ」 「そっか……そうだよな、お前はそういうやつだよな」 それを聞いて一安心し踏ん切りがついたのか、彼は一呼吸おいて、 「俺……勉強、ちゃんとしようかなと思ってるんだけど」 「……………………はぃ?」 「いや、だから勉強をちゃんとしようかなと」 「…………………えーと?」 あまりに予想外すぎる、というか寧ろあまりに彼らしくない話題に、つい間の抜けた声が漏れた。 彼は彼自身が生まれつきから持っている能力や才能などの、先天的なことを理由に勉強については常々不満をもらしていた。 面倒くさいだの、どうせ右手があるから能力開発は意味がないだの、やったところでできないだの。 彼の今までを顧みるに、勉強はできることならやりたくないが彼の本音だったはず。 それがどうだ、今彼は勉強をちゃんとやると言った。 それもここまで改まって、ここまで真剣に。 状況を考えてまず間違いなく真剣な話なのだろうが、どうしても冗談に聞こえてしまう。 「えっと……何か悪いものでも食べた?いや、食べ物は私が管理してるし……じゃあどこかで頭でもぶつけたの?もしかして今日の学校の人達にやられたんじゃ…」 「ちげーよ!そもそも真剣つったろ!!」 どうやら、やはり冗談ではないらしい。 どこかで頭をぶつけたことが原因という線もこの様子ならば薄いだろう。 では一体何が彼に変化を与えたのか。 その疑問が頭の中に浮かんできたが、それとは別に、違うものが体の内からこみ上げてきた。 それはいたって真剣にこの話をもちかけてきた彼に対しては抑えておいた方がいいもの。 しかし、衝動的にこみ上げてくるこれは、どうにもこうにも抑えることは無理そうだ。 「あのさ、一体どうしてそんな決意をしたのかとかの疑問は尽きないけどさ、それって別に……学生としては当然のことよね?というか、そんな真剣に決意するほどのこと?」 「…………まぁな」 その瞬間、ずーんと彼の周りを重苦しい空気が取り巻いた。 やはりいたって真剣な今の彼に対して、これは言うべきではなかったかもしれない。 「そりゃあ、お前とか普通の学生のことを考えれば至極当然のことだと思うけどよ、おバカな上条さんにとっては一大決心になるんですよ!」 「…………あぁ、そうね」 「お前今絶対、こいつやっぱバカだなって思っただろう!?」 だから勉強するんだよ!と、次第にヒートアップしてゆく彼をよそに、一方で自分の心はクールダウンしていった。 能力開発の教科は仕方ないとは思うが、一般教科まで低いのは今までの過ごし方に問題があるからだろう。 そうツッコミをいれようかとも思ったが、彼を落ち込ませることになる可能性もあるので、口にだすのは控えておく。 しかし、真剣な表情で話がある、と話をもちかけられ、一体何の話がくるんだと興味をもち、同時に心配さえしていたのだ。 それなのに実際に蓋を開けてみれば、自分にとっては特に特別でも何でもない決意表明。 正直、自分自身の耳を疑った。 「……まぁ百歩譲ってそうだとしてもさ、一体どうしてそんなことを考えたの?今までは確実に勉強嫌いだったわよね?」 「そうだけど、話題としてはむしろそこの方が重要なんだよ」 「…?」 なら重要な方を先に言えばよかったのではないかというツッコミも、ここでは控えておく。 また話を路線から逸らすわけにはいかない。 しかも、そのことに関しては少なからずの疑問はあった。 「さっき俺、ちょっと外出てっただろ?あれ、小萌先生に相談してたんだ」 「先生と…?一体何を?」 「学年の話、なんとかできないかって」 「……なるほど、そういうことね。じゃあその急な決意のきっかけはもしかして今日の夕方のあの子達?」 「それ以外にも昼間の元同級生のやつらとか他にもあるけど、まぁ大体はそんなとこ」 今日の夕方、自分の後輩である佐天と初春達と四人でお茶をした。 そのお茶会の最中では、恥ずかしい思いこそしたものの、特に彼が気にするようなことは何もなかった。 しかし話を一通り終えて、自分がファミレスでの勘定をしている時、彼は彼女たちに学年のことについて触れられたらしい。 合流した後、彼の雰囲気がおかしかったのでその時のことを聞いてみると、彼はそう答えた。 その場では落ち込む彼を諭すことは出来たが、思えばあの時から彼の調子や雰囲気は僅かながらも変わっていたかもしれない。 スーパーで買い物を終えた後、学生寮に向かっている最中に感じた彼の変化はまさにそれに当たるだろう。 「……あれ?もしかして、追いかけっこするきっかけになったアレって、これのこと?」 頭の中で夕方のことを思い出していると、あることについて思い出した。 それは、彼が夕方にいつか必ず話すと約束したこと。 追いかけっこをする直前に彼が言い放ったが、よく聞こえなかった話のこと。 「夕方のアレ…?あぁ、あの話はこれの話じゃないぞ?つか、あの話は今日じゃないいつかにするって言ったろ」 「あ、そう…」 半分がっかり、半分安心した。 彼の様子から察するに、きっとあの話は重要なことなのだろうと直感していたためだ。 そういう意味でとりあえず半分は安心。 しかしそれがもしこの話だったならば、彼には悪いが少し拍子抜け。 確かに彼にとっては重要なのだろうが、自分にとってはあまりメリットがない。 「でさ、話の続きなんだけど…」 「へ?あぁうん、どうぞ」 別のことを考えていたせいか、彼は少し怪訝な表情でこちらをみていた。 どうやら話の続きを話すタイミングを伺っていたらしい。 「んで、小萌先生になんとかして進級できないかと相談してみたところ…」 「ところ?」 「多分無理だろう、と」 「……まぁそうでしょうね」 当然と言えば当然。 一度学校が決めたことはそうそうは覆らない。 ましてや学年のこととなればなおさらだ。 「でもだ」 「…?」 「無理ってのは何もせずに、今の状況のまま無理やり学年を上げるってことだ。つまる話、お偉いさん方に自分はできるということさえ証明できれば、先生もそれを理由に交渉ができて、なんとかなるかもしれないそうだ。……あくまでも可能性の話だけどな」 「でも、そうなると相当の成績がいるんじゃないの?学年のことが絡んでるんだし」 良い成績とは言っても、中途半端に良い成績ではそれは叶うとは到底思えない。 少なくとも一年の内容なんてものは完全に理解していると思わせるくらいでないと、お偉いさん方は恐らく納得しないだろう。 となると、そういう方々に納得してもらえるほどの成績とは、 「今度の中間と期末で学年三位以内、百歩譲っても十位以内には入ること。その後、つまり夏休みに定期テストとは別で、一年の内容の総合テストをみたいなのを作ってくれるらしいから、そっちでもちゃんと良い結果をだせたら、いけるかもしれない、らしい」 「…………」 場を沈黙が流れる。 それは今までの彼のことを考える限り、絶対不可能な条件。 今までの彼は、もしもテストで平均点をとれるようなことがあれば、それはかなりの良い出来と言えるくらいの学力レベルだったからだ。 一年間授業を受けてはきたものの、その授業の定着率には疑問符がついてくる。 しかも中間は五月の末。 たった一ヶ月かそこらで今の状態から上がれるとは到底思えない。 更に言うなら、彼には幻想殺しという特殊な能力をもっている。 その能力がある限り、能力開発は単位すら危うい状況である。 「……でも、それでもやれるだけはやっておこうかなと思うんだ」 「そうね、何もしないよりかはやれるだけでもやった方がいい。……けど、大丈夫なの?」 彼は今まで、自分が馬鹿だからという理由で最低限の勉強しかしていなかった。 そんな彼が、そもそも勉強の仕方を知っているはずがない。 その状態では、効率の悪い勉強を繰り返して時間を無為に過ごすだけだ。 「ぶっちゃけた話、俺一人の力だけじゃキツい。だから、その…」 「私の手伝いがほしいって?」 「お恥ずかしながら…」 そんなもの、答えは一つに決まっている。 彼と共に同じ道を歩むって決めた時点で、勉強の面倒をみることは初めから決定事項。 勉強の指導をしなければならないのは別に今に始まったことではない。 「まぁどのみちそうなるだろうし、断る理由もないし、私はもちろんいいに決まってる」 「そっか……悪いな、本当にいつもいつも」 「何を今更、今に始まったことじゃないでしょ?」 口はあくまでもそう開いた。 しかし反面、彼が勉強を頑張り、可能性は低くても難しい条件でもそれをクリアしてしまったならば、彼は進級していく。 それはつまり、彼と自分の学年が変わってしまうということ。 元々彼と一緒に学校生活を夢みていた自分にとっては、それはあまり喜ばしいことではない。 だから一瞬、承諾の返答をする前に、拒否の返答の可能性も頭でちらついた。 彼とはいつでも一緒にいて、同じ時を刻みたいと思ったから。 だがそれは彼自身のことなど何も考えていない、自己中心的な単なるわがままでしかないのだ。 そんな自分の目先の楽しみのために彼の先を、可能性を潰してしまうことなどあってはならない。 偶にならまだしも、いつまでも我を通し続けるというのは、彼女のすることではない。 賛成と反対、建前と本音、理性と本能という相反する意見が頭の中でせめぎ合う中、今ここで、彼のため、自分のために、それらの葛藤を理性でもってねじ伏せた。 「……まぁでも、去年のことを思えば、それくらい、なんともないだろうしね…」 「ん?何か言ったか?」 「ぅぅん、別に、何でもない…」 「……?」 未だ釈然としないとも言いたげな目で、彼は自分を見てくる。 しかしこれは、本心は彼には言えない。 そうすることで彼が迷ってしまうということは絶対に避けたいから。 それはいつもいつも自分のことなどより他人のことを優先する彼ならば、十二分に有り得ること。 しなかったからという後悔だけは、彼にしてほしくない。 「よし、じゃあそうと決まれば善は急げ、今日からビシビシやってくわよ?」 「へ?今日はほら、時間もあれだし、明日からでいいんじゃねぇか?」 「何言ってんのよ、私ならともかく、アンタにとってはただでさえ条件がアホみたいに難しいのに、明日からやるなんて言ってると絶対にクリアは不可能。そもそも、この私に勉強の面倒見ろって言ったんだから、私の言うことは聞きなさい」 「お、おぅ…」 上条は内心、とんでもないのを家庭教師につけてしまったんじゃないかと、してしまった後悔した。 だが上条とて、男。 しかも今回以上の修羅場や死線など、数え切れないほど経験してきた。 覚悟を決めることはそんじょそこらの一般人よりも断然得意だ。 人間諦めが肝心だ、とはよく言うが、それを良い意味で上条はよく知っている。 やるべき時、腹をくくらなければならない時を熟知している。 「……とは言っても、今日はアンタが言った通り時間も微妙だし、私自身何をやるべきなのか把握してないから本格的な勉強は明日からで、今日はこの先の勉強の計画をたてよっか」 「……って、結局やらないのかよ」 「何言ってんの?計画をたてることや範囲をしっかり把握することだってすごく大事なことよ?それじゃあ教科書一通り持ってきて」 「そういうもんなのか…?まぁいいけど」 よいしょと、上条は重い腰をあげ、ゆったりとした動きで彼の後方にある本棚へと手を伸ばし、教科書を一冊ずつ手にとってゆく。 現在の時刻は21時30分。 時間的には別に勉強ができない時間ではない。 しかし、今日という残りの時間は敢えてこれからの計画をたてることに使う。 それは今後のことを視野に入れた計画をたてることと、もう一つ、彼に気持ちの切り替えを促すという目的も含まれている。 一つの決心をしたことで切り替えはある程度できているとは思うが、もう始まったということを彼の体にも教えていかねばならない。 切り替えはできたできたとは簡単に言っても、そんな簡単に今までと真逆の生活をできるものではないからだ。 「……こんなもんかな?」 「ありがと。ねぇ、中間テストの範囲ってどれくらいやるか覚えてる?どの道全部やるから関係ないけど、一応重点的にやるから」 「中間の範囲か……うろ覚えだけど、確かここから―――」 4月14日、上条はある一つの決め事をした。 それは今までの上条のことを考えれば、越えることは到底不可能にさえ思える高い高い壁を越えるためのもの。 今日彼が進んだ一歩はとても小さいように思える。 だがしかし、その小さな一歩がなければ大きな一歩は成し得ない。 その小さな一歩がなければ、不可能は不可能のままだ。 だから上条は例えどんなに小さな一歩ずつしか進めなくても前進する。 不可能にさえ思えるとてつもなく高い壁を越えるために。 美琴はそんな上条を支援する。 自分自身が何度も倒れてしまいそうになった時、上条が美琴を何度も立ち上がらせてたように、美琴もまた上条がいつまでも立って進んでいけるように彼といつまでも共にいて、彼を支えていく。 彼女はそうして希望ある将来へと向かって進んでいこうと決めている。 それが、美琴が考えるこれからの二人の理想の姿だから。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2001.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある不幸な都市伝説 4日目 上条編 日曜日の朝6時である。 一般的な学生なら二度寝する時間帯だが、上条はコタツに入りながら宿題をしている。 本来なら昨日からやっていたはずなのだが、いろいろあってそれどころではなかった。 ていうか、今も頭に中はそれどころではないのだが、さすがに真っ白な宿題を提出するわけにはいかない。 小萌先生に泣かれてしまう。 そんなわけで宿題をやろうとする意志はあるのだが、やはり昨日の事を思い出してなかなか作業がはかどらない。 (美琴だって女の子だし…やっぱりアレはマズかったよな~……) 溜息をつき、コーヒーでも飲もうかとコタツから出たとき、眠り姫が目を覚ました。 「とうま、お腹すいたかも。」 彼女の朝の挨拶は「おはよう」ではない。「お腹すいた」である。 今日は朝飯を作るのが面倒だったので、おかずはごはんですよだけだ。ビンの蓋を開ければそれでいい。 だがご飯のほうは炊けるまであと10分はかかる。 「とうま、ご飯はまだなのかな?」 「あー…悟飯はアレだ。ピッコロさんと修行中でまだ時間がかかる。」 「もう!早くしないとサイヤ人が攻めて来ちゃうんだよ!?」 中身の無い会話をしつつ、インスタントコーヒーを濃い目で淹れる上条。彼曰く、ゴドーブレンドの完成だそうだ。 インデックスはコタツの上にばら撒かれたプリントや問題集に目を向ける。 「と、とうまがお勉強してる! これは悪い事がおきる前触れかも!! きっとこれから核戦争が起きて文明が滅んで、世紀末覇者が支配する荒廃した世界になっちゃうんだよ!!」 「失礼なヤツだな君は……」 「でもしゅくだいは昨日やるってとうま言ってたよね。」 さすがは完全記憶能力者。余計な事まで覚えていやがる。 だが言えない。「実は美琴と遊んでて宿題に手がつきませんでした~」などとは言えない。 そんな事言ったら頭をガブガブを噛み砕かれる。万事屋さんとこの定春くんだって最近はあまり噛まなくなったというのに。 「そ、そういえば昨日は風斬とどこ行ってたんだ!?」 上条は強引に話題を変えた。 「あのね!あのね!昨日はひょうかとね!ふれんどぱーくって所に行ったんだよ! なんかね!すごくね!色んな機械がいっぱいあってね!ぷりくらもね!いっぱい撮ったんだよ!」 よほど楽しかったのだろう。興奮しすぎて喋り方が子供っぽくなっている。 かわいいなこの子。 「へー。お前達もあそこにいたのか。」 「……お前達も? 『も』ってどういうことなのかな……」 ヤバイ!と思ったときには後の祭りであった。 インデックスの歯がギラリと光る。 「もしかしてとうまもあそこにいたのかな……? でもしゅくだいを放り出してまでとうま一人で行くとは考えにくいんだよ…… 誰かと一緒だったのかな……? ひょっとして女の子なのかな……?」 コロンボや古畑のようにネチネチと攻めてくるインデックス。 上条はあからさまに目を泳がせる。 「い! いやいや!! 上条さんにはナンノコトヤラワカリマセンガ!?」 「とうま……正直に言えば許してあげるんだよ?」 「…本当に? マジで? 神に誓って噛み付かない?」 「私は敬虔な十字教徒なんだよ? さすがに神に誓ったら嘘はつけないかも。」 「そ…そっか……あー、まぁなんつーか…昨日は美琴と一緒にあそこに行ってたんだ。」 「へー。どおりで気前よく五千円もくれると思ったんだよ。 短髪と遊ぶためには私は邪魔だったわけなんだね。 しかも何気に『みこと』って呼び捨てにしてるし……ホントヨカッタネーとうまー。」 「ア、アレ? ちょっと待てインデックス! どうして口を大きく開けているのでせうか!?」 「それはね、今からとうまに噛み付くためなんだよ?」 「おかしいおかしい!! 神に誓って許してくれるんじゃなかったのか!!?」 「うん。 でもそれはとうまが嘘をついたことに対して許しただけであって、 黙って短髪と遊びに行ったことは許してないんだよ?」 「なんだよそれ!! 屁理屈じゃねぇか!!」 「と~う~ま~~!!」 「ギャー!! 不幸だーーー!!!」 朝っぱらから騒がしい二人である。ご飯もう炊けてるよ? 「とうまのバカ!」と言い残し、インデックスは出て行った。 ちなみに、朝ごはんはしっかり食べていった。おかわりも3回した。ごはんですよの力は偉大である。 一瞬、追いかけたほうが良いのかとは思ったが、どうせ行く宛など小萌先生の所しかないので、放っておくことにした。 それより問題は宿題である。 あまりにもはかどらないため、上条は助っ人を呼ぶことにした。 「こんなときドラえもんでもいたらなぁ~」と思うのは日本人なら仕方ないだろう。 真っ先に思い浮かんだのは御坂だ。 彼女はこういうときなぜかよく勉強を見てくれる。 そしてなぜかよく目が合う。ついでになぜかよく顔が真っ赤になる。 ちなみにインデックスのことを話すとなぜか途端に不機嫌になる。 まぁそんなわけでいつものように御坂を呼びたい所だが、昨日の今日でそれは無理だろう。 次に思い浮かんだのは土御門と青髪である。 だが即座に頭から消した。アイツ達から学ぶことなど何も無い。 と、そこで土御門でふと思い出した。 ヤツも例の現場を目撃したはずだ。 それにしてはお隣が静かすぎやしないだろうか……? 不気味である。しかし確認しに行けば、自らからかわれに行くようなものだ。 ここはそっとしておくことにした。 これが嵐の前の静けさだと分かるのは後のことだ。 しかしそうなると助っ人は誰を呼ぼうか。やはり姫神あたりだろうか、とケータイをいじる。 なんとなくフォルダ内のア行から見ていく上条。 すると真っ先に出てきた名前は「一方通行」だった。 (いやいや、アイツはないだろう…たしかに頭はいいだろうけど、こんなくだらないことで呼び出したら、 つぶれたトマトのでき上がり!ほひ~ほひ~ってなっちまう。 上条さんは愉快なオブジェにはされたくありませんのことよ!) そう思い下へスクロールしようとした瞬間、昨日の一方通行の言葉を思い出した。 (そういえば何かあったらいつでも言えって言ってたな…イチかバチかけてみるか……?) 生きるか死ぬかの問題を、イチかバチかのギャンブルで決めるなよ。賭博黙示録じゃないんだから。 結局、一方通行にかけてみた。ざわ…ざわ… だが3回コールした後に出てきたのは、 『ハイハ~イ! こちらスネーク、応答願いま~す! キャハ!!』 明らかに一方通行ではなかった。 「あ、あれ? えっと…誰? これ一方通行のケータイで合ってるよな!?」 『ミサカはミサカだよ? 第一位なら今現在、見た目10歳くらいの幼女とソープでローションプレイ中で~す!』 要約すると、打ち止めと一緒にお風呂に入って体を洗ってあげている、ということらしい。 チッ! 期待させやがって。 「あー…それじゃあ、風呂から出たら伝言頼めるか?」 『いいよ。……ていうかお宅はどちら様? 「ヒーロー」って名前なの?』 どうやら一方通行のケータイでは、上条は「ヒーロー」という名前で登録されているらしい。 なんて恥ずかしいヤツなんだ。 「いや…違うけど… そういうアナタはアレですか?美琴がスーパーキノコ食ったバージョンの…えーと… そういえばお互い自己紹介がまだだったな。俺は上条当麻。アンタは?」 『あ…えと…ミサカは番外個体……』 この電話の声の主、番外個体は上条当麻が苦手である。 ミサカネットワーク内の悪意の塊である番外個体にとって、負の感情を和らげてしまう上条はまさに天敵なのだ。 そんなことをしたら彼女の存在価値が失われてしまう。球磨川だって改心したのだから。 『あの…ご用件はなんでしょうか……』 さっきまでの変なテンションはどこへやら。番外個体は急におとなしくなる。 「ちょっと勉強教えてもらおうと思ってな。昨日会ったとき、『困ったときは力になる』的なこといってたからさ。」 『昨日って……ゲーセンみたいなところ?』 「ああ、そうだけど…なんだお前もいたのか。 俺は美琴と一緒に遊んでたんだけどな。」 『美琴ってお姉様!!?』 番外個体はまだ御坂本人に会ったことはない。 だが、やはり産みの親(?)であるお姉様には少なからず興味があるようだ。 いや、それだけではない。この男についても、ミサカネットワークを通じて、ある程度の情報が入ってきている。 (コイツとお姉様が遊びに行った!? そんなの絶対、面白い【ろくでもない】ことになったに決まってるじゃない!!) にたぁ~っと歪んだ笑みを浮かべる番外個体。藤田和日郎作品の悪役みたいな笑い方だ。 厄介な人物、四人目の誕生である。 『ねぇ! 勉強ならミサカが見てあげよっか!?』 「え……そりゃ嬉しいけど、いいのか?」 『平気平気! ミサカだって、学習装置で脳内にあらゆる情報ムリヤリぶっ込んでんだから!! 高校の勉強くらい、食ったものをケツから出すくらい普通にできるって!!』 「本当か? 因数分解とかできるか?」 『全然余裕っち! ミサカその気になれば、2桁の掛け算から人体練成の構築式まで暗算できるから!!』 「すごいのかすごくないのかよく分かんねぇよ! けど人体練成はやめとけ! 身体、持ってかれるぞ!!」 『じゃー今から行くね。一回行ったことあるから道案内もいらないし、それじゃ!』 そう言って番外固体は通話を切った。 十数分後、番外個体が寮の前で見たものは、 コンビニのビニール袋を片手に、頭にシャケの切り身を乗せた上条の姿であった。 「えっと…これはミサカがツッコむところ?」 「いや…ははは……」 実はあの後上条は、 (さすがに宿題手伝ってもらうんだから、茶菓子のひとつくらいは出さなきゃだよな……) と、思ったのだが、この家には食料を蓄えるという習慣が無い(正確に言えば人型星のカービィ【しろいあくま】が根こそぎ食べる)ため、 コンビニへ行ったのだ。 まぁそのコンビニの店員さんに、新しくフラグを建てたことは割愛しよう。本人も気付いてないし。 その帰り道、降ってきたのだ。シャケが。 シャケが好きな第四位でもこのシチュエーションは喜ばないだろう。 ちなみに、こけしや赤べこが降ってきたこともある。 不幸な彼にとってこのくらい日常である。 「まぁ入ってくれよ。散らかってっけど。」 「ねぇ、そのシャケ食べるの?」 食ってたまるか。 部屋に上がり、上条の買ってきたポッキーをポリポリつまみながら宿題を手伝う番外個体。 「……なんか意外だな。」 「何が?」 「なんつーか、電話した感じだともっとふざけてくるのかと思ったけど、マジメに教えてくれるからさ。」 「なにそれ!? 心外なんだけど!! ミサカこれでも約束は守るほうだよ!? 約束ハ大事ヨネ。」 流石でございますドロッセルお嬢様。 「気を悪くしたならすまん。すごく助かるって言いたかっただけなんだ。 ありがとうな。」 そう言ってニコッと笑う上条。その笑顔に番外個体は少しドキッとする。 だが直後に首をブンブン振った。 「ミ、ミサカはその手には乗らないから!!」 上条は例のごとく、なんのこっちゃ分からない。 (あぶないあぶない……危うくコイツの魔の手に引っかかるところだった。 そもそも恋愛感情なんて、ただのドーパミンの過剰分泌だってのに……いや、恋愛感情じゃないけどさ。) このまま上条に主導権を握られてはいろんな意味でマズイと判断し、 番外個体はここに来た本当の目的をとっとと切り出した。 「そういえば、昨日はお姉様とデートしたんでしょ?」 「デートじゃねぇよ。二人で一緒に遊んだだけだって。」 「……いや、男女二人で遊びに行けば、それはもう立派なデートだよ。」 「え!? そういうもんなの!!?」 目からウロコとはこのことだ。 へえ~とか、ガッテン!とか鳴るボタンがあったら押しまくっていただろう。 本当にコイツはデートって何だと思ってたんだ? (落ち着け!落ち着くんだ上条当麻!! ということはだ、以前インデックスや風斬と地下街に行ったときは……三人だから違うか。 イタリア旅行はどうだ?……あれも途中からインデックスがはぐれちまったからノーカンだよな。 罰ゲームんときは……まぁ罰ゲームだしな。 てことは、つまり昨日のアレが俺にとっての初デートぉぉおおーーーー!!?) 「は…はは……そんな記念すべき日に俺は……」 なにやら思い出し落ち込みしている上条。 番外個体の目がキラリと光る。 「ナニナニ!? 何か落ち込むようなことがあったの!?」 「あー…実はさ……」 上条は昨日の出来事を話した。 「え~? それだけ~?」 「それだけって!! やっちまったんだぞ!?」 「どうせやっちゃうなら一夜限りの過ちとか、 もっとドロドロでヌレヌレでエロエロな展開じゃないとミサカつまんな~い。 今時、小学生でももっと進んでるよ? …まぁ学習装置からの情報だけど。」 「余計な情報まで教えんなよ学習装置!!」 「少なくとも、責任とって付き合うくらいしろよ根性なし。」 「……そういうことは好きな人同士でするもんなの!」 「だって、お姉様は上条当麻のことが好きなんでしょ?」 「いや、それはねぇよ。 まぁ嫌われてはいないみたいだったけど。 …つーか昨日の事で嫌われちまったかもしれないけど……」 「うわ…マジかコイツ……じゃあ逆に、上条当麻はお姉様のことどう思ってるの?」 ―――俺は?――― 好きか嫌いかで聞かれたら好きなのだろう。 だが、それが恋愛感情かと聞かれたら答えられない。 なぜなら彼はインデックスのことも好きだし、吹寄や姫神のことも好きだ。 イギリス清教の人たちだって好きだし、土御門に青髪、一方通行や浜面だって好きだ。ステイルはまぁ、微妙だ。 要するに鈍感な彼は、自分の気持ちにも鈍感なのだ。 大きなくくりでの「好き」という感情は分かるが、それが家族へのものなのか、友人へのものなのか、恋人へのものなのか、 その先が細かく仕分けできない。2位じゃダメなんです。 はたして御坂への好きは、どの「好き」なのだろう。 「……よく……分かんねぇ……」 番外個体はふぅ、と溜息をついた。 (ま、コイツから引き出せるのはここまでかな。) 番外個体的にはちょっと不完全燃焼だが、まぁ収穫はあった。 今、聞いた話をミサカネットワーク内に流せば、妹達は面白い反応をするだろう。 「…じゃあミサカもう帰るね。今日来た目的は達成されたし。」 「……えっ!? 目的って宿題手伝ってくれることだろ!? まだ半分も終わってないんだけど!!」 「ミサカ、宿題は自分の力でやらないと意味が無いと思うの。」 「ごもっともな意見!! だけど約束は!?守るほうじゃなかったっけ!?」 帰ろうとする番外個体を引き止めようとして、上条はコタツの角に足をぶつけた。 そして倒れこむ。番外個体を押し倒す形で倒れこむ。 またかよコイツ。 そして右手は、番外個体の左胸を完全ホールドしている。私の氷はちょっぴりコールドである。 「ミ、ミサカこういうこと初めてなんだけど……」 「ち、違う!!俺はそんなつもりじゃ―――」 「とうま、ただいまー! お腹すいたn……」 最悪のタイミングでドアが開く。 小萌先生の家でごちそうになり、上機嫌で帰ってきたインデックスは急激に不機嫌になっていく。 いや、その前にメシ4杯食って、その後人ん家でごちそうになり、まだお腹がへってるってどういうこと? なんて言っている場合ではない。この後どうなったかは言うまでもないだろう。 番外個体はドサクサに紛れて帰った様だ。 結局、残りの宿題は自力でやることになった。 が、6分の5くらい終わったところで上条は力尽きた。 ここまでやれば、小萌先生も泣くことはないだろう。まぁ、説教くらいはあるだろうが。 だが翌日、小萌先生の説教の他に、とんでもないイベントが上条を待ち構えていたのだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある不幸な都市伝説
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2204.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の告白成就 <新訳・第1章 上条当麻の決意> (こんどは…なんだ……) 気が付くとまた、俺以外何もない空間へと辿り着いていた。 変わったことといえば、今度の夢は世界そのものがひどく漠然としていた。 そして、どこか懐かしく、優しく、暖かな光が俺を包み込んでいた。 (――どうやらここが終着点のようだな…、俺が、アイツと一緒に夢見てた幻想の…) 上条はインデックスの言葉を聞いて何もかも思い出したのだ。 美琴との思い出、上条からの告白、常磐台に行った理由、風紀委員の支部に行った理由 ――そして、美琴に完全に拒絶されてしまったことも。 (…もう、何もかもどうでもいい) そういう後ろ向きな思考だけが俺を支配していた。 ・ ・ ・ ・‥…ーー━━☆ そんな俺の目の前に、突如として『星』が出現した。 (なっ、何だ!コレは) 『星』はお先真っ暗な上条という一隻の舟が、彼の悲願(彼岸)たる一つの港に到着したときの印、 俗に言う『澪標(みをつくし)』に到達したことを想起させるように、小さいながらも身を尽くして懸命に輝いていた…。 ―――― ――― ―― その光の元を辿っていく。 そこに現れたのは、可愛らしい少女であった。 彼女の姿形が分かる距離まで歩み、見てみると、どこか見覚えのある幼い娘であった。 そして、今度ははっきりと聞いてみた。 「…こんな何もないところで、何してるんだ?」 「…お星様を描いてるのよ」 そんな返事が聞こえてきた。 彼女は先程の『星』をなぞるようにこの空間に同じものを何百個も描いていた。 「…さっき泣いていたのは、ひょっとして君だったの?」 「私は泣いてなんかいないよ、泣き虫なんて大っ嫌いよ! …でもこれから、一杯嫌なことがあるけど…決して泣いたりなんかしないもん」 …どうも要領を得ない。そして次の質問が頭に浮かばない。 そんな上条は、本当に楽しそうに描いている彼女の横顔をただ見つめることしかできずにいた。 ◇ 「よ~し、終わったよー。最後まで付き合ってくれてどうもありがとう! お礼に素敵なプレゼントを送りたいな♪受け取ってくれるよね?」 「…ああいいぜ、受け取ってやろうじゃねえか」 「良かった…。それじゃいくよ、それっ!」 彼女の合図から始まり、奇妙な姿勢で軽やかに歌って踊り出した彼女に同調するかのように、 辺り一面へと彼女の描いた星の光が、上条にとっての「常世の闇」を照らし、満ち溢れていく。 その光景はあたかも宇宙が誕生して間もないころの原始の光であった。 (これは、スゲェな!…ファンシー系が好きだったあの御坂は、きっと大喜びだろうな) ・ ・ ・ …やがて光は消えていき、また闇が戻ってくる。 「ん、もうおしまいか?素敵なプレゼントってのは?」 ――― もう隠す必要も無いでしょう。あなたは知っているのでしょう?…私が誰なのか? 気が付けば、少女は俺の隣から消えて辺りを埋め尽くす闇に溶け込んでいる。 少女の声もいきなりどこか無機質なものに変わった。 その声にも聞き覚えがあるような気がしたが、どこで聞いたのかまではやはり分からない。 …でも、彼女はどうやら俺の心の奥深く、『絶対的意識』の中に常に存在するようだった。 だからその声を聞いてようやく答えが出た。 「俺がさっきまで見てた夢の、そのまえ――最初に何度も夢の中に出てきた奴だろ?」 ――― はい。あなたならば、その答えが返って来ると思っていました。 もうじき『私』は、「この場所」から一歩も動けなくなるでしょう。 だから私はある者の『影』として、こうして時代という境界を超えて現出しています。 「…さっきの話もそうだが、いまいち要領を得ないんだけど…」 ――― 説明している時間がありませんので、次へと進ませていただきます。 ――あなたが先ほどまで忘れていて、今も後悔している『あの少女』のことについてです。 俺はその言葉に反応する。 「…御坂のことか?一体何を話そうっていうんだよ…俺はもうアイツに嫌われちまったんだぞ? 確かに後悔してもしきれないが……運命がそう決めちまったんだ」 ――― …そんなことを他でもないあなたが言わないでください。 あなたは一度、偽りの幻想から私を救ってくれたではありませんか?彼女のことは諦めてしまうのですか? 「私を救ったって、…俺は夢の中でしかオマエに会ってないんだぞ?」 と、自分で言ってハッと気付いてしまう。 夢の中で彼女が身近にいる誰かのように思っているのは、他でもないこの俺だが……記憶は別なのだ。 今の上条はどういうわけなのか、前世である『記憶をなくしたはずの少年』の記憶を受け継いでいる。 もしかしたら、彼の記憶の根幹に関わる身近な人なのかもしれない。 そして俺はある一つの結論を出した。 「ひょっとして…インデックスなのか?」 ――― はい。…ですが、正確には違います。『禁書目録』は謂わば、わたしの生き写しです。 本当の私はとうの昔に、彼女を産み落として亡くなっています。 どうやら目の前にいる彼女は、自らの過去について語るらしい。 ◇ ◇ 彼女…名前がないので適当に付けた「エル」は、まるで神話の世界にいたかのように、こう語っていた。 「エル」は文学や天体の知識に詳しく、魔術の才能に満ち溢れた少女であった。 そして若いころの彼女には生まれも育ちも同じ、愛しい少年がいた。 その少年は卑しい身分の者であったが、大きな夢を持ち、そのためには如何なる苦労をも惜しまなかった。 やがて多くの者が彼の熱意に触れて、彼を中心として神々に対抗し、ついに彼等は勝利を収めた。 ――だがそれは本来、存在し得ない歴史の流れだった。 躍起になった『神』は彼の拠り所であった少女「エル」を、自分の物にしようとして彼にとある試練を与えた。 彼には神様に対抗できるだけの力がなかったが…それでも、「エル」を神々からの呪縛から解き放とうとした。 しかし、あと一歩まで迫った彼が記憶を消されてしまったことで、「エル」は神様の子を産む結果となったと言う。 「その子供が…インデックスってことなのか?」 あまりにも馬鹿げている話である。神様は二人の強い結びつきを、記憶を消す形で踏みにじったのである。 そしてインデックスが産まれてきて間もなく、彼女は不治の病にかかってしまう。 元から無理な出産だったのだ。「エル」自身も彼女と同様に自らの死を覚悟していた。 だが「エル」は、産まれてきた『自分』の子供の輝かしい未来を、いつまでも見ていたいという強い気持ちがあったらしい。 そこで、その時代・その分野において最も秀でた才能を持つ魔術師に頼み、困惑した魔術師も承諾する。 そして彼女の病を治す形で、「エル」はインデックスに乗り移った。 ――『自動書記(ヨハネのペン)』である。 また、その魔術師は交換条件として『天上の意志に辿り着く』インデックスを自分の養女として迎え、 自身が研究を進めてきた能力開発の第一号にすることを要求し、苦悩の末に「エル」はその条件を飲んだ。 …結果は怖ろしいものであり、魔術を自由自在に使いこなす才能にも恵まれた「エル」が乗り移ったためなのか、 インデックスは古今東西の魔道書を記憶し、その魔術師の力をも上回る正真正銘の『神』の領域に達した。 だから「エル」を封印する形で、インデックスの本来の記憶が消されていたのだ。 ――― しかし、あなたが彼女と私を救ってくれたおかげで、私はこうしてあなたの前に現れることができました。 それに過程はどうであれ…『神の如き者』のおかげで再び現出することができた私は、 このことを彼女に教えてあげることもできました。 「えっ…それじゃ、」 ――― はい、彼女の記憶は戻っていますよ。記憶を消される前の私たちの記憶や 仲睦ましい二人の魔術師、彼等以外の彼女を見初めていた人たちとの大切な思い出も…。 良かった。本当に良かった…。 そう思っているのは俺ではない、記憶を失った少年だったのかもしれない。 知らぬ間に目からは一筋の涙が流れていた。 ◇ ◇ ◇ ――― 『禁書目録』は、立派なシスターです。彼女は神の子でありますが、同時にこの時代における平和の象徴でもあります。 もしあなたが彼女を助けていなかったら、あなたは今頃彼と同じ運命を辿っていたのかもしれません。 「…どういう意味だ?」 ――― あなたが最初に彼女を助けていなかったならば、私もこうして過去の記憶を取り戻すことはありませんでしたし、 何より私が、これからあなたに『正解の道』を示すことができるのですから。 あなたを愛し、あなたが愛する少女と私は、同じ運命にあるのですから…。 「…ようやく本題ってことか。でも御坂も神様に愛されているってどうして言えるんだ? 確かにここんところのアイツのツキは異常だが…それだけじゃないんだろ?」 ――― 確かに、私も神に愛されてからというもの、強運に恵まれました。 ですが、私の言う問題は他にあります。あなたは神に対抗し得る力を、ついに手に入れてしまいました。 ―――それは私の愛した人が望んだ力でもあるのです。 「つまり、ソイツと同じように記憶を消されかけた俺は、今神様の試練の前にいるっつうことか? …んでもって俺の右手にある『幻想殺し』も、その神に対抗するだけの力を持っているのか?」 上条はここまで話の筋が合っている、彼女の言うことならば嘘はないと信じる。 ――― 察しが良くて助かります。少し違いますが、そう思っていてくれて構いません。 ――『現世(うつしよ)は夢、夜の夢こそ真実(まこと)』 あなたが見た夢は現実のものとなりますが、悲観することはありません。私の彼も通った『正解の道』です。 しかし、あなたが彼女のことを強く思っていなければ、より強い結びつきがなければ、 今度こそ記憶を失うことになります。あなたにそれだけのモノや覚悟がありますか? 「…ああ、俺にはある」 上条の携帯には、美琴からもらったゲコ太ストラップがある。 かつて一度だけ自分の手から離れてしまったその装飾品は、 北極海を彷徨って、もう一度奇妙な偶然で美琴の手から俺の手に戻ってきたのだ。 これ以上の結びつきがあるはずがない。 ――― そうですか。…もしそれですら駄目なときでも、その右手のおかげで、あなたは正解にたどり着けるでしょう。 上条はその言葉に小さく頷く。自分の右手を強く握り締めて。 そして、上条の前に一本の道が現れた。 ――― …この道を辿っていけば、もう帰ってこれないかもしれません。 でもそれは、さっきのあなたのように過去に囚われることの無い、とても幸せな未来。 ――私たちのずっと思い描いてきた未来、『誰一人悲しむことのない世界』が実現する未来につながっています。 「…そんな大切なものを、俺にくれるっていうのか?」 彼女は小さく首を横に振った。 ――― いいえ、この道の先にあるのは、あなた方が創る、最も輝かしい未来でもあります。 あなたが自らの意志で歩んでいく道なのです。…夢の叶わなかった私がその未来の顛末を決めることはできません。 「…そうか」 歩み出そうとした足を一端止めて、上条は改めて彼女に聞く。 「でも、…オマエはそれでいいのか?」 ――― ……いいのかもしれません。 「…どうして、運命の赤い糸で結ばれていたオマエ達が、こんな不幸を背負わなきゃいけないんだろうな」 上条はしばらく上を向き、彼女の苦労を嘆くよう天に睨みつけていた。 そして、おそらく自分の右手が『運命の赤い糸』を打ち消すということも神の仕業のように思えてきた。 ――― でも、いいのです。こうして何千分…いえ、何十億分の一の確率で再び巡り合うことができたのですから。 「……へっ?…ひょっとして俺なの?」 ――― ふふっ、いいえ違います。彼は生まれ変わっても私と、私の生き写しである禁書目録と、今は一緒にいてくれています。 …それだけで、私はとても幸せです。 「…」 上条はしばらく黙り込み、後で大きく頷いた。 「――じゃあ、俺行くわ」 上条が一歩ずつ前に進んでゆき、後ろを振り返らずに手を振った。 振り返らずとも分かる。 彼女は嘘をついていた。――さっきまで泣いていたこと、…今も泣いていること でも本当は、彼女は嘘をついていない。――もうあの夢で見た少女は『死んだ』のだ、 …それでも今は、笑顔を浮かべて『嬉しい』から泣いているのだ だから上条は振り向かない。立ち止まれない。 彼女の見たかった世界をこの手で掴もうという決意を抱き、上条はまた歩み出す。 ― ―― ――― 夢から覚めた俺に先程の症状はなく、起き上がった俺にインデックスが抱きついてきた。 どうやらずっと魔術を行使して看病していたらしい。 「…ただいま」 「ヒグッ…エグッ…うん、おかえり…とうま」 汗が滲み出る程にまで詠唱を繰り返していたインデックスの瞳に大粒の涙が浮かんでいる。 「それから、インデックス。ごめんな、ずっと気付いてあげられなくて」 「…うん、でもとうまは悪くないよ。わたしもやっぱりとうまと同じで、本質は何も変わらなかった。 多分『前のとうま』でもね、ちっとも分からないんだと思うよ。だから、そんなこと言わないで。 私はいっぱい泣いたから…、夢の中でいっぱい泣いたから…」 「…」 「さっきも言ったけど、…わたしはもうここから一歩も動けない。 魔術もね、さっきので限界まで使い切っちゃった。」 「…」 「ほんとはね、わたしもみことを救いたいんだよ! みことはわたしが泣いてたとき、わたしを、優しく抱きしめてくれた…。ほんとのお母さんのように…。 あのとき、どんなに救われたか。 …今度はみことが泣いている。 だからお願い…とうま、わたしの思いも持っていって!みことを救ってあげて!!」 先程のエルの話から推測して、正義感の強い美琴は 俺に辛い目を合わせないために、俺から距離を置くなんていう『絶対にできない』嘘をついたのだ。 そして知った。今は助けを求めている。頼ってくれている。 だから何としてでも救い出す…今なら間に合うのだ。 いや、間に合わせる! 「…分かった、インデックス。お前の分も、俺は諦めない。忘れてやるもんか! 絶対にアイツが囚われている幻想は、この俺が跡形も残さずぶち殺してやる!!!」 ――そして、俺と神様との壮絶な戦いの火蓋が切って落とされる! 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の告白成就
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1017.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side ― 制約と誓約 ― 「本当に死ぬかと思いましたよ……今まで受けた中で一番キツい攻撃だったかもしれねぇ…」 「いちいち大袈裟なのよ。……って言うか、本当言うとああいう場合は医者に行くべきだったんだけど、別に大丈夫よね?」 「あのな、本当に痛かったんだぞ!?なんならお前もくらってみるか!?ってか最善策がちゃんとあったんじゃねえか!」 「はいはい、それにちゃんと反省してんの?」 「……まぁ反省って点ならしてるよ、今まで本当に悪かったと思ってる」 「そう、ならいいわ」 今二人の状況は、とりあえず上条は上半身裸で美琴に背を向けてベッドの前で座っている。 そして美琴は彼の背中を後ろからタオルで拭いているという図だ。 消毒などをしようにも、まず背中の血をなんとかしなければならないためだ。 だが上条の背にこびりついた血は存外とれにくく、今も拭き取るのに悪戦苦闘していた。 美琴はお湯にタオルをつけて拭いているのだが、今やそのタオルは赤く染まり、お湯も赤黒く濁っている。 それでも、完全にはまだとれない。 「しつこいわね……もういっそお風呂でシャワーかけながらやった方がずっと早いような気がしてきた」 「……お前さらっとすごいこと言ってんじゃねえよ。別にここまでやってくれれば俺一人で…」 「ダメ、私がやる。アンタが自分でやってたらどの程度拭けたかとかわからないでしょう?」 「それでも一緒に風呂に入るのは色々まずい気がするのですが!?」 「べ、別に一緒に入るわけじゃないわよ!あくまで入るのはアンタだけだけど、拭くのは私ってこと!」 結果として結局上条が裸を晒すことになるので、彼にとっては大して差はない。 確かにどれだけとれたか、どれだけ拭けばいいのかは上条一人ではわからないが、ある程度とれて消毒ができればそれでいい。 だから彼としてはできたらそのイベントはごめん被りたい。 彼女の前で裸になったとしたら、彼としては色々とまずいことになる。 「あの…やっぱり俺一人だけでも…」 「ダメ。というかアンタはずっと背中向いてればいいんだけなんだから別にいいじゃない。……じゃあ早く準備してきて。準備できたら呼んでよ。もし呼ばなかったら…」 美琴はニッコリといかにも裏がある笑顔を目の前の上条に見せながら、彼女のまわりにビリビリと放電させて威嚇する。 ここがもし外なら上条はこの命令を無視できたかもしれない。 どれだけ放電されても、死ぬほど怖い思いをするが、自分は彼女の攻撃は打ち消せるから。 だがここは自分の家であって、彼女がむやみやたらと放電されると自分自身は無事でも、彼としては絶叫ものの二次災害が起こる。 一年間"外"で仕事をしてきたわけだが、それは基本的には無報酬で、上条が貧乏学生であることには以前と何ら変わりない。 だから家電の破壊という二次災害だけは避けたい。 美琴は恐らくそれをわかってやっているのだろう。 上条にとって自分の電撃は全くもって意味がなく、ここぞという時の脅しとしてはあまり効果をなさないということはよく知ってるはずだから。 上条は無言で頷き、嫌々ながらも渋々といったような表情でゆっくりと動き、新しいタオルを一枚手にとって風呂のある洗面所へと素直に向かった。 「準備ができたらちゃんと言いなさいよー」 彼女の言葉を背に聞きながら、上条はゆっくり洗面所のドアを閉めた。 洗面所に入った上条は、少し戸惑いながらも残された下半身の服を脱ぎ捨て、それを小さな洗濯物のカゴにいれる。 そして手に持っていたタオルを一枚腰に巻いて準備完了。 久々となる我が家の風呂場へと赴き、仕方ないので待たせている彼女を呼ぶ。 するとドアの前で待機していたのか、もの数秒で洗面所のドアが開く。 そこで何やらごそごそとしているかと思えば、少し経つと風呂場へと顔を出す。 しかし流石に恥じらいの念があったのか、堂々とというわけにはいかず、始めはドアの隙間からひょこっと顔を出すだけにとどまっていた。 「お前な、自分から言っといてそれはないだろ。……やっぱり一人でやってってオチか?まぁ上条さんとしてはそれでも全然構わないのですが」 「わ、わかってるわよ!入ればいいんでしょ!入れば!」 「なんで俺が強制させてるみたいになってんだよ…」 少し自暴自棄気味な言動でズカズカと入ってくる美琴に対して、上条はやや呆れ顔でため息をつく。 この時期は世間的には春ということになっているものの、夜はまだ昼のように暖かいわけではない。 逆に夜は少し肌寒いくらいの気温だ。 だから上条としては今この状況はあまり好ましくない。 彼の今の着衣は腰に巻いたタオル一枚だけで、他は何も着ていない。 なので今は寒くて仕方ない。 やらないならさっさと一人で温かいシャワー、やるならさっさとことを終えたかった。 もちろん年頃の健全な男子である上条にとって、この自分が裸で自分の恋人が同じ風呂場にいるという状況も、あまり好ましくないのは言うまでもない。 いつ自分が暴走してしまわないか冷や汗ものだ。 しかしそんな彼の心情を知ってか知らずか、美琴は入ってからもすぐには作業には移らない。 「おーい、早くしてくれないと上条さんは寒くて仕方ないのですが」 「ぅ、うん…」 美琴の調子が少しおかしい。 先ほどまでの彼女らしい威勢はなく、どこか大人しい。 「…?どうした?」 「っ!?わ、わわっ!こっち向くな!!」 美琴の調子がおかしいことに疑問を持った上条は後ろを向いて確認しようとする。 それを美琴が直前で止めようとするが、人間、言われた瞬間そんな早くに行動には移せるわけがない。 止まれという信号が発せられてから、動作に移るまでは若干のタイムラグがある。 結果的に、上条の顔は美琴をはっきり見れる範囲まで後ろにまわり、その状態でようやく止まる。 「…………」 しかし彼が止まったのは美琴からの注意もあったが、それ以外にも要因はあった。 それは今上条の後ろにいる美琴の姿。 彼は今の彼女の姿をさっきまでと同じく、どこかで見たことのあるセーラー服かと思っていた。 だが彼女の姿を視界にいれた直後、上条はその考えは当然のようであって間違っていることに気づく。 冷静に考えてみれば、これからすることは水を盛大に使う作業。 そのままの格好では水は飛び跳ね、服は濡れてしまう。 だからあの格好のままでできるわけがなかった。 少なからず服を脱いでいるという可能性の方が確実に高い。 どうしてそれが思いつかなかったのだと上条は後悔する。 今の美琴の格好は、上はセーラー服の下に恐らく着ていたのだろう彼女らしいカワイイ系のキャラがプリントされたピンク色のシャツ。 そして下は彼女の最後の砦たる短パンは履いておらず、下着だけ。 シャツによってチラリと見えるか見えないかくらいに下着が隠れ、そこからスラリとモデル並みのキレイな太ももを露わにしている。 その姿は健全な男子にとっては下手に脱いだ姿よりも断然破壊力がある。 無論それは上条にとっても例外ではない。 上条はその彼女の姿を目にして固まり、美琴は顔がリンゴのように赤く染まっていった。 「……はっ!!わ、悪い!服を脱いでるとは思ってませんでした!」 はっと、意識を取り戻した上条はぐりんと顔を急回転させる。 そのあまりの早さに少し首筋を痛めたが、今彼が置かれている状況を考えればそんなことは些細なこと。 今は命さえも危うい。 「…………」 沈黙。 美琴は何も言わず、場を沈黙が支配していた。 こういう黙っている時からくる怒りは、変にギャーギャー言いながら怒る時よりも逆に怖い。 黙ってるくらいなら罵声でもいいから何かしゃべってほしいというのが上条の本音。 (あぁ…死んだな、俺。……でもこいつに殺されるなら本望だ) 冥土の土産に良いもの見れたし、などと彼の思考は完全に違う方向へと向かっている。 他にも色々とパターンを考えるが、やはり美琴は黙ったまま。 流石におかしいと感じた上条は、美琴には背を向けまま、 「あの……美琴サン?一体、どうしたのでせうか?」 「な、何でもない…じゃあさっさとやっちゃうわよ」 「…………あれ?」 美琴はそう言って、何もなかったかのようにホースをとって上条の背中にお湯をかけ始める。 それはまた自然のように見えてどこか自然ではない。 以前の彼女なら自分の今の姿を見られた場合、すぐに上条に雷撃を放つことうけあい。 いつも短気で勝ち気で活発な彼女がこんなに大人しいと逆に気持ち悪い。 だが当の彼女は依然として、それが当然のように背中をこすっている。 時々その力が強くなって痛くなるが、それは怒りがこもっているようなものではなく、許容範囲内の痛み。 それよりも今の美琴の方が理解の許容範囲を超えている。 「……あのさ、怒らないで聞いてくれるか?」 「なによ?やっぱりやめて、なんてのは受け付けないから」 「違う違う。……えっとだな、美琴サンは、どうして私めがその姿を見たことを怒ってないのかなと思いまして…」 「何?怒ってほしいの?」 「んなわけあるか!…ただ、前のお前なら当然怒ると思ったからだよ」 「別に、大した理由はないわよ。……さっきのは早くやらなかった私が悪いと思ったし」 「本当に、それだけか?」 「……なんで?」 なんで、と問われて上条は返答に困った。 しかも、自分から本当にそれだけかと聞いておきながら、なんでこんなことを聞いたのか自分でもよくわからなかった。 なんとなく、と答えればそれまでだろう。 だが上条はそう答えるのを躊躇い、口にしようとはしない。 自分の理性による問いではないにしろ、本能的にでもこんなことを聞いたのは何かしらの理由があるはず。 その理由がなんなのかは、今の段階では何とも言えない。 それでも敢えて言うのであれば、それは違和感。 思えば再会したときから、彼女に少なからず違和感はもっていた。 その再会時の違和感は、さっきのやりとりのようなあからさまな違いや違和感ではなく、もっと微妙感覚での違和感。 彼女の言動、挙動、仕草、態度。 何か、何かが違う。 きっと何かが彼女の身にあった。 それは自分がいなかったということ以外の何か。 自分のことなのではあるが、恐らく自分はその違和感から彼女に先ほどの問いをしたのだろう。 ほんの少しの沈黙の後、上条は美琴の問いに対して、 「上手くは言えないけどよ、なんか、違うと思ったから?」 「……何かが、違う?」 「あぁ、色々考えたけど、やっぱり何かが違う気がするんだ。俺のいない間に、何かあったのか?多分、俺いなかったってだけでそこまでは変わらないと思うんだ。そりゃあ俺がいないことで寂しい思いはさせたろうけどさ……でも、それ以外にも何かある気がする」 「…………」 美琴はまた黙る。 先ほどと違うことと言えば、彼女の背中をこする手は止まっておらず、ピチャピチャと水の跳ねる音がして完全な沈黙ではないこと。。 そして、彼女を取り巻く雰囲気が少し変わったこと。 さっきまでの美琴はいつも通りとは言わずとも、明るさがあった。 でも今は、それがない。 ただ明るさがないだけで、暗いというわけでも、思い詰めているという風でもないのだが、それでも、少し違う。 それでも、背中越しで、顔を見ていなくてもわかる違い。 「……普段は鈍感なくせに、こういうことだけは敏感なのね。とは言っても、これも元はと言えば、アンタがいなかったからなんだけどさ」 雰囲気はそのままで、上条の背中越しに美琴はしゃべりだす。 「アンタがいない一年間は、それはもう耐え難いものだったわよ。できたらもう二度とあんな思いはしたくない」 「……それは悪かったと思う」 「ううん、とりあえずはちゃんと帰ってきてくれたからいいの。……それでもね、離れてても電話声とか聞いてたり、去年誓ってくれたことを思い出せばどれも堪えられた」 「……そっか」 「そして、その私にとって重要な生命線の一つの連絡が途絶えて、私は落ち込んでた。それを黒子達は慰めてくれたけど、立ち直れなかった。立ち直れるわけなかった」 彼らを今取り巻く環境は、美琴がまだ手を止めないため水が跳ねる音がするだけ。 それ以外には二人がしゃべるくらいしか音はない。 しかし上条には妙に静かに感じられた。 彼女のこれまでの話を聞いているとどうしようもない闇が自分を覆ってくる。 「そんな落ち込んだ状態で受験して……まぁもちろん余裕で通ったけど、気が気じゃなかった。そんな中で、一番きつかったことは、今日のあのよくわからない男の話」 「あいつが、美琴に何か言ってきたのか?」 「……あいつが、上条当麻の話をしたいって私に近づいてきて、それで……アンタは、当麻はもう、死んだって言ってきて…」 「なっ!」 「もちろん言い返したわよ?嘘だって、そんなわけないって。…でも連絡がないこととか、あっちでの私の知らないこととか言われて、言い返せなくなって…」 「それで、あいつはお前が話を信じてへたれこんだところを狙ってきて、そこに俺が飛び込んできたってわけか?」 「…………ぅん」 「そっか……お前があいつの攻撃を避ける素振りを見せてなかったからおかしいと思ってたら、そんなことがあったのか…」 「……ぅん」 とうとう美琴はシャワーを止め、動かしていた手を止めてしまった。 作業が終わったからなのか、辛いからなのかはわからないが、恐らく話す、思い出すだけでも十分キツいだろう。 まだ言ってはないが、上条の連絡が途絶えてしまったことには理由はちゃんとある。 だがそんなことを抜きにしても、何か自分にやれることはなかったのか。 不安で、不安定だった彼女を救う手立てが何か。 その何かが結局何も思いつかなかった自分が腹立たしい。 自責と自虐の念が絡み合った闇が上条をひたすらに覆っている。 「はい、終わり。血はきれいにとれたと思うけど、一応拭いとこっか?」 「ん?あ、あぁ頼む」 美琴が聞いてきたので上条は返答したものの、それはちゃんとした思考の元での返答ではなかった。 別のことに思考を向け、聞いてきたことに思考は向けなかった、向けられなかった。 美琴は今まで寂しい思いをしてたと言った。 それは自分にも言えることだが、彼女に比べれば、やるべきこと、しなければならないことがあった分、自分は軽いのかもしれない。 彼女は耐え難い一年間だったと言った、連絡がとれない期間はひたすらに落ち込んでたと言った。 自分も向こうでは数多の死線をくぐり抜け、何度も何度も死にそうな目にあった。 そういう意味でとても自分も耐え難い一年間だったと思う。 しかし、自分の耐え難い一年間とは言うなれば身体的なもの、一方彼女のものは精神的なもの。 身体的な傷や疲労などは一定のラインさえ越えなければ、時が全て解決してくれる。 自分のものはそのラインを越えていないものと言えるだろう。 それは今自分がこうして元気にしていることからも明らか。 だが、精神的な傷や疲労というのは必ずしも時が全て解決してくれるとは限らない。 精神的に追い詰められることで、どうにかなってしまうことなんてザラだ。 こうして見れば、上条のダメージと美琴のダメージ、どちらが重いかは明白。 そんな美琴に追い討ちをかけるかのような一報。 確かに、それまでに蓄積されたものを考えれば、彼女を精神的にどん底に突き落とすことなど容易い。 そこをついてきたのは相手だったが、その状況にまで彼女を追いやったのは自分。 自分が、原因… 「っ!?」 そんな重く、暗い思考に陥っていた上条を現実に拾い上げるかのように、背中が何かに覆われる。 何かとは言ったが、そんなものは一人しかいない。 今まで背中を拭いていた美琴だ。 「あったかい……人肌って、こんなにあったかくて、心地良いのね。今までは服越しだったから知らなかった…」 「なっ…!!」 美琴は彼の背中を拭き終えた後何を思ったのか、水分はとれたものの、裸のままの上条に背中から抱きついている。 そして抱きついている美琴は一応服は着ているものの、上はシャツ一枚に下は下着だけ。 そんな状況が状況なだけに、上条は布越しでも後ろにいる存在の体温を感じられ、同時に女性特有の体の柔らかさもまた、感じられる。 普段の状態なら変な方向に調子が向かっていってしまいそうだが、今の上条の状態は普段のそれとは言い難い。 それでもこの状況は、上条にとっては非常によろしくないのは言うまでもない。 ただ今まで考えていたことが暗い分、こんなことをされるのは予想外にも程があった。 「アンタの…当麻の、心臓の鼓動も聞こえる。これはちゃんと生きてる証拠よね。うん、当麻は……ちゃんと生きてる、ここにいる」 「……!」 心なしか、美琴の腕の力が強まる。 美琴の呟きは上条に言ってるものではなく、自分自身に言い聞かせてるように感じられた。 今日は今までも彼と接してきたのに、彼の存在を感じていたはずなのに、それをさらに確たるものにために。 「美琴、おまえ…」 「私、やっぱり無理してたって言うか、まだ不安だったみたい」 「……?」 「当麻と再会した時あれだけ抱きついて、今の今まで会話したり手をつないだり触れたりしてたのに、それでもまだ不安だったのかもしれない。当麻はいないんじゃないかって」 「……そんなこと、あるわけないだろ」 「そう、そんなことはない。それでも少し不安だったのよ、なんか今日起きたことは全部夢みたいでさ。何かの拍子に夢から覚めてしまうことを」 上条は黙って話を聞いていた。 今までこういう不安を吐き出す場は美琴にはなかったはず。 恐らくこれ以外にも言いたいことは他にもたくさんあるのだろう。 だから、今まで吐き出さず、中に溜め込んでいたのなら、今それを吐き出せばいい。 ならば自分から何かをとやかく言うより、今は黙って彼女が吐き出すのを待っていた方がいい。 「でも、これは夢じゃない。現実で、本物の生きてる上条当麻はここにいる。今確認した」 「あぁ…」 「ちゃんとここに当麻がいるから、もう失いたくないの。一度、擬似的にでも当麻を失った悲しみ、痛みを知ったから余計に。……だから万が一の確率でも、冗談で放った電撃で失ってしまったら元子もない。だからさっきのはそういうこと。前よりも、もっともっと当麻を大切にしたかったから」 風呂場は今、さっきまでお湯を出していたからか、はじめよりは寒くない。 そして背中には美琴が抱きついているためか、そこから伝わる様々な感触のためか、体は火照っている。 今は上条は裸でも、そこまでこの状態でいるのは苦じゃない。 それに、先ほどまで彼女が真剣な話をしていた分不謹慎かもしれないが、背中に感じる彼女の存在は様々な意味で気持ちがいい。 そこから美琴は黙ってしまった。 どうやらとりあえず今彼女が言いたいことは言い終えたらしい。 美琴は上条の背中で何も言わずに、何やらもぞもぞ動いている。 少しでも内に溜め込んでいたものを吐き出すことで、彼女が楽になれればそれでいい。 美琴のために今自分がしてやれることは、そばにいてやることと話を聞くこと。 それが彼女の笑顔に繋がるのなら、いくらでもそうしてやりたい。 「…………なぁ美琴、言い足りないことがあるなら、もっと話してっっ!!」 突然、上条の肩の後ろ辺りに痛みが走る。 彼女に何かをされた。 始めはわからなかったが、時間が経つにつれ、その何かとは後ろを向かずとも、感触で大体はわかった。 痛みが走った肩の辺りに何やら生暖かいものがあたっており、そこに硬いものが突き立てられている。 恐らく自分は美琴に肩を噛まれている。 でもそれは銀髪シスターがしてきたような、ただ怒りに身を任せた噛みつきとはまた異なっているように思えた。 それが証拠に、その間の時々に彼女の熱っぽい吐息が漏れている。 そして彼女のそれは上条の肩を甘噛みするだけにとどまらず、最後にその小さい口でちゅっと吸い上げられた。 一体彼女が何をしたかったのか、それを敢えて言うまでもないだろう。 「んんっ……ふぅ」 「お、お、おおお前!何してんだよ!!」 立て続けに起こる予想外の出来事に、上条は戸惑いを隠せない。 上条は背を向けているため見ることはできないが、今美琴はこの一年間の中では最高と言えるかもしれないほどの笑顔を見せている。 始めは彼を抱きしめたい衝動に駆られ、彼の温かさを知り、それを独り占めしたいと思った。 そんな唐突で、突然湧いた感情で起こした行動ではあったが、後悔などは一切ない。 もっと言えば、この感情を抑えつけたくなかった、抑える必要もなかったとまで思っている。 自分は彼の恋人であり、甘えられるのは当然。 それに、 (今まで、一年間我慢してたのだから、これくらい、いいよね?) こんなことをしても彼は自分のものにはならないのはわかっているのに、彼が自分のものになったように感じられて、満足感でいっぱいだった。 「何って…痕をつけてた?私のしるし…」 「痕って、痕って……お前、俺が今ここで理性を崩壊させてたらどうするつもりだったんですか!?」 「その時はその時よ。それに、私はもう高校生なんだから手を出しても別に大丈夫なんじゃないの?」 「それもそうか……じゃなくてだな!」 「はいはい、アンタの言いたいことはわかってるわよ。……それじゃ私はもうでるから、アンタはまたシャワー浴びるなり好きにしなさい。出てきたら包帯巻くから」 「はっ?えっ、ちょっとまっ!」 美琴はそれだけ言って、上条を無視して風呂場からでていった。 色々と美琴にもて遊ばれ、とり残された上条は、何故だかもの悲しい気分になった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/738.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/上条さんが…ちっちゃくなりました。 1日目 「不幸だぁぁぁぁぁぁぁ!」 いつもの口癖を第一声にして私、上条当麻の最低最悪な春休みが始まった。この部屋には自分以外誰もいない。隣にいる土御門も兄妹でどこかに旅行中なのだとか。ちなみにいつもいる暴食シスターは、神裂やステイルとともにロンドンに帰っている。 朝起きるときになんとなくは気づいてはいたんだが、いつの間にか視点が低くなっていた。 顔を洗いに洗面所に行ったときに自分の身に起こったことが分かった。 「あれ?上条さんは今、いくつなんでせうか。」 子供の声がする。というより、自分の発する声が妙に高いことに気づく。もう一度鏡で確かめてみると、そこには見慣れたツンツン頭をしている小学1年生くらいの男の子が立っている。何分かはそこで突っ立っている。 幸い、この日は補習というものがない。というより、今年度は学校の補修工事が入っているためそれができないらしい。そのため、あの幼児体型の先生から大量の宿題をもらった。 とりあえず、このままでは何もできなかった。キッチンには手を伸ばしてやっとであるのでご飯の支度が全くできないのである。そこで、知り合いに電話をかけることにした。充電している電話に手を伸ばし、その知り合いに電話をかけることにした。 ――ゲコゲコッゲコゲコッ! ――「お姉さま?電話が鳴っているようですが。」 ――「分かった。今行くわよ。」…携帯の画面のCall下には「上条当麻」と書かれている。美琴は、少しずつ心臓の波打つスピードが速くなっていることに気づかない。そして、電話に出る。 「ハイ?もしもし、あんたはさぁ、今何時だと思ってるのよ。ったく。」 『あ。ごめんなさい。上条さんは、非常に困っておりましてですね…』 「んで?どうしたの?」 『ですから、あの…なんて言ったらいいんでせうか…今日、暇か?』 ここで、花も恥じらう14歳はかなりテンションが上がり、舞い上がってしまう。 (あいつから電話が来て、それでいきなり「暇か?」ですって? 用事ってもしかして…で、で、ででででででデートですかぁ?)ひとりで顔が真っ赤になり、口が小さくもごもご動いている様子は外から見ればとても奇妙な光景でかなりのスクープものである。 『どうしたんだ? 今日暇か?としか聞いてないのによぉ。』 「いいの、いいの、気にしないで。美琴せんせーは今日はフリーですのよ。しょうがないわね。付き合ってやるわよ。ずーーっと。」 『それは、上条さん的にとてもうれしいことです。というわけで、うちに来てくれないか。』 「いいわよ。何持っていけばいい?」 『そうだなぁ…。特にいらんのですよ。というわけで、早く来いよ!じゃな。』 (なんとか、ばれなくてよかったな。それじゃあ、あのビリビリ中学生でも待っていようかな。) 上条は、自分の家に美琴を呼ぶことにした。そして、この現状を見てもらおうということだ。若干、いやな予感はするもののそれ以上に嬉しい気持ちが大半を占めているのに自覚がない。 しばらくすると、電話の相手がやってきた。 コンコン!『来てやったわよ。早く開けなさいよ。』 「待ってろ。今開けてやっから。」ガチャッ!ドアを開けた先には誰もいない。幽霊の仕業かとも思ったが今は朝の9:00すぎである。もともともじもじしながら外にいた美琴は、いつものツンツン頭が下に見えることに驚く。 「あれ?ここって上条さんのお宅ですよね? お兄さんはいるの?」 「おれだよ、おれ!」と後頭部をポリポリ掻きながら言う。 「おれだよって…まさかねぇ…ハハ…ハハハハハハハ…」しばらく頭の整理がつかないまま笑っている美琴。それを困った表情でみている小学生、自称高校生という滑稽なシーンがしばらく続いた。とりあえず、この状態を打破すべく上条は部屋に入るよう促した。 上条は落ち着いて聞いてくれと美琴に真剣な顔でいう。 今日の起きた時からの事をずっと話して、本人も楽になった。 途中、美琴は信じられない顔でけなしたり、バカにしてきたりとやっていたが、 状況をつかんだのか、なんとなくだけれども自分がやることがしっかり見えたようにも見えた。 美琴は、とりあえず目の前に座っている小学生にお姉さん顔でいう。 「あんたは、私の事を美琴お姉ちゃんって呼びなさい! じゃないとどうなるか知らないわよ…わかった? ちなみに、私はあんたの事をとうまって呼んであげるから。」 へいへい。といわんばかりの上条であったが状況が状況であるために仕方がないと腹をくくった。 とうとう、上条は空腹に耐えきれなくなって腹の虫が騒ぎ出した。 「あら?当麻君はおなかが減ったのかしら?お姉ちゃんが何か作ってあげようか?」 「わりいな。びr…美琴お姉ちゃん!」 「あんた、今ビリビリとか言おうとしてなかった?」バチバチッ! 「なんでもありませんよ。上条さんは、なにかしましたか? ハハ…」 あわてて美琴の手に右手を添えながら言う。 「お嬢様だからってなめんじゃないわよ。 勝手に冷蔵庫の中覗いておいしいもの作ってやるからね。まってなさい!」 なんだか、ツンツンしているようでなんだか嬉しそうな後ろ姿。 いつも自分が付けているエプロンをつけて、鼻歌を歌いながら料理をしている女の子。 (あいつの小学生の頃ってあんなにかわいかったんだ。 しぐさとかは高校生の時と同じだし、何かとガキ扱いされてるのもむかつくんだけど、 なんかあの顔を見るとほっとしちゃうのよね。なんというか…) (レベル5とか言われてるけど、やっぱり女の子なんだよな。 なんつうか、正直じゃないところがかわいいというか、 でも、本当の御坂が素直ならいつでも好きになっちゃいそうなのにな。) 目線がいつの間にか交差していることに気づく二人。 (*1) 二人は、別なベクトルに顔を向けた。二人の顔は林檎よりも赤い。 しばらくして、料理が運ばれてきた。 「う~ん。あんたは何を食べて生きてんのよ。」 「何だっていいだろ?ったく。でも、これうまいな。」 「…ありがと。お姉さんとてもうれしい!」 おもむろに立ち上がる美琴。それも笑顔で。目の前からいなくなった。 …バサッ! 後ろからいいにおいとやわらかい感触が襲ってきた。 「…おい。離せよ。」目線が落ち着かない。 そして、その様子を美琴が面白そうにのぞく。 そして、抱きつきながら笑顔で話す。 「いつものあんたもこんな風にしてくれればいいのに。 私が仕返しできないじゃない。」 そう言うと、美琴は上条が持っていた箸を取り上げ、 おかずに箸をつけて自分のほうに寄せてきた。 「あ~~ん。…ほぉらぁ!あ~~んしなさいよぉ。 この御坂美琴様が特別にあんたにしかやらないんだから。ほ~~ら!」 上条は少し照れながら美琴の言うとおりにした。 そんなこんなで朝ごはんが終わる。 そして、二人はテレビをつけて隣り合うように並んで見ている。 「あんたさぁ?」ん?と言いながら上条は美琴の言葉にふりむく。 「これから、どうしようっての? 子供用の服とか持ってるわけじゃあるまいし、 元に戻らなかったらどうするのさ。」 「さあな。上条さんも困っているのですよ。」 「ふ~~ん。」といいつつ、美琴はひらめく。 (こいつを弟として振り回してやろうかな。 いつもガキ扱いされてるんだから今日ぐらいは…) 「お前…なんか企んでるだろ…上条さんにはわかりますの事よ。」 「え?てか、おまえじゃないでしょ?美琴お姉ちゃんでしょ?」 「わかってはいるんだけどさ。やっぱりな… でも、今日はおれが頼んだんだし文句ばっかりも言ってられないな。」 ということで、今日の上条は美琴のおもちゃになると腹を決めた。 「なんかさ、うちにいてもつまらないからどこか行かない? 私の友達に弟いる子がいてさ、その子にあんたの服一緒に選んでもらわない?」 「それは、それは、ありがたいことですよ。 上条さん的にも大助かりというか。」 「それじゃあ、行きましょ?とうまくん?」 上条はいつものTシャツを着て、 ズボンをはこうとしたがダボダボだったので、そこで戸惑った。 その困り果てた顔をした上条に美琴が微笑みながら いつも下にはいている短パンを貸してあげた。 カギは美琴が持っている。そして、佐天と待ち合わせの電話をした。 しばらく歩くと、声がきこえてきた。待ち合わせ場所はいつもの自販機前だった。 「あ!御坂さん!右の子ですか?かわいい!なんていうか、あの人みたいですよね。」 「え?まぁ、私のいとこが急に来るって言ってたし、たま~に…ね。」 「それで、要件なんですけど、この子の服見に行こうかなって思っててさ。付き合ってくれない?」 「いいですよ?そしたら、私の知ってるとこに行きましょう?」と佐天は言って、モノレールの駅まで行き、第6学区に行く。 モノレールの中ではサイドシートに上条を挟んで二人が座る形になっている。上条は身体が小学生であるといっても頭は高校生であるので、この雰囲気にドキマギしている。 右には御坂が手を握って座っている。左には佐天がかわいいと何連発もいいながら美琴に話しかけている。 ――上条は二人のお姉さん(?)たちに振り回される一日が始まるのをまだ知らなかった。 「ここですよ。ここ!SEVENTH MISTの姉妹店のVIER ROSSAですよ。」 佐天が新築の建物を指さして言った。 「へえ、私も知らなかったな。ここにあったんだ。 黒子と行ってみようかな。 それとも、あいつと行ってみようかな。あいつがよかったらなんだけど…」 「あいつって誰ですか? 御坂さぁ~~ん?」 横にいた佐天ににやにやされながら質問された。 「え?…えへへ……えへへへへへへへへ」(笑ってごまかそう。) あいつこと上条はとても白い目で、お前何がしたいんだ? と言わんばかりである。 この変な空気をぶち殺すために美琴の脇腹を右手で叩いた。 美琴は、極限までゆるんだ顔を急激に戻して、上条に顔を向けて…左手を掴んで… 「お姉ちゃんにパンチしたのはこの手かなぁ? このおててにびりびりしちゃおうかな?」 なんだか、笑顔なんだが目には光がなく、 背中から暗黒物質(ダークマター)が噴き出ている感じである。 それを見た佐天は、半分呆れ果てた顔でその場を取り繕う。 「さぁさぁさぁ!御坂さん!行きましょうよ!この子のためにも!」 「そうね。」 そして、店の中に入りお勧めの服屋を見つけて入っていく。 (最近の服は大人顔負けだな。これもいいな、あれもいいな。 今日はあいつに甘えてみようかな。 おれも、ひとりの男だけど今日はひとりのガキだ。いいよな。) 「美琴お姉ちゃん!おれ、あれがいいな。」 (いま、みことおねえちゃん!って言ったわよね。 佐天さんも聞いてるはず!というより、 今の顔めっちゃかわいいじゃん! とうまぁって抱きついてやりたい!えへっえへへへへへ…)ニタァーーーーー。 (御坂さんってこんなキャラだったかな。 でも、こんな所もあったんだって思うと、なんだか可愛いな。ほんとに。) 「ふにゃぁ///」美琴は、気が抜けてしまう。それを支える佐天。 しかし、美琴のお姉ちゃんという使命感によって数秒で復活した。 「なあに?当麻ぁ。これがほしいの?」 「うん。」ここでは、小学生然たる言い方で話すように努力している。 「へえ、当麻君はこういうの好きなんだぁ。好みが渋いんだね。」 佐天が上条のほうを向いてというより、同じ目線になって話してくれている。 上条はドキドキしてしまった。 そんなことも知らずに、 二人のお姉さんたちは上条のファッションショーを展開しようと企んでいた。 「ねえ、あんた。これ着てみない?」 わかった、と言ってものを受け取ると着ぐるみのようなゲコ太のパーカーだった。 なんとも美琴らしいものだった。 それを着てみせると佐天は、こんなの着てみない?と言ってこっちに寄こす。 佐天は弟がいるだけあって、自分のセンスに沿うようなものを選んでくれた。 美琴から借りた短パンに似合うようなカジュアルなYシャツとジャケットだった。 「これはいいな、佐天さんありがとう。」 「いいってこと。 でも、御坂さんだけお姉さんって呼ばれててお姉さん悲しいな。 私の事も遠慮なくルイねえって呼んで!」 「ありがとう!ルイねえ。」 「どういたしまして!ルイねぇ、本気になるぞぉ!」と言って、また服を選びに行った。 「当麻ぁ。これ着てみなさいよぉ。お姉ちゃんの選んだ服がきれないのぉ? 無理だったら、私が着せちゃうぞぉ。キャハッ!」 どうみてもこれははしゃぎすぎだろうと無能力者(レベル0)2人は思った。 このやりとりは30分以上続いた。 しばらくして、2つのセットを選び、美琴に勘定をしてもらい、外にでた。 いまの状態を説明すると、 上条を中心に右に御坂、左に佐天というハーレムな状態である。 服は佐天が持ってくれている。 上条にとってはとても申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 ちょうど、お昼くらいだったのでファミレスを探し、 モノレール駅近くのところに入った。 時は過ぎ、日がそろそろ落ちるところ。 第7学区のモノレール駅の前で佐天と別れた。 美琴とはずっと手をつないだままだった。 (こいつの手って、不幸ばっかりもたらすのかと思ったらそうでもないじゃない。 今日だって、何もなく終わったし、何気にこいつのかわいいところとか見れちゃったしな…) 横で、顔の全体の筋肉を自由活発に動かしている美琴をちらちらと見て、 怪しいと思いながら上条は歩いているのだった。 上条宅に到着。しかし、美琴は隣にいて、今日は泊まると言った。 今日は…ではなく、しばらくの間面倒を見てくれるらしい。 その証拠に、家に着くまでの行動はというと、 佐天と別れた後、美琴は「うちの寮によってもいいかしら。 あんたの世話するんだから、寮監にもちゃんと言っておかないとね。」といい、常盤台の寮に行く。 寮に行くと、目の前に寮監がいて、 美琴と二人で口実を言って外泊を特別に許可してもらった。 その帰りに美琴の部屋によって、ある程度の私服と私物を持っていった。 このとき、黒子は風紀委員(ジャッジメント)の見回りがあるため部屋にはいなかった。 黒子には、メールと書置きをしておいた。 という感じであった。と言っているうちに美琴が笑顔でいう。 「これから、買い物に行かない?今日は何食べようっか?」 「上条さんは、人が食えるものなら何でもいいですの事よ。」 「あんたってさ、ほんとにわたしの事馬鹿にしてるわよね。 でも、今日は許す!この寛大な心を持った美琴お姉さまが許しますよ。」 ありがたき幸せぇ~と棒読みでふざける当麻に、 天使の微笑100%で返す美琴。 幻想殺しでは壊せないものである。 この幸せはどこまで続いているのだろうかと。 「行こうよ、みことおねえちゃん!」と、 上条は笑顔で美琴の制服のスカートのすそを引っ張りながら言う。 「はいはい。当麻君は、せっかちなんだからぁ~~。」 と日々の仕返しをするかのように上条を子供扱いしている。 それにむすっとふてくされる上条を見て、美琴はいとおしく感じた。 家を出て、近所のスーパーに出向く。 「今日の晩御飯は何がいい?」 「そうだな、こないだのハンバーグとか。」 「それでいいの?なら、前回を越すやつ作っちゃうから。期待してなさいよ。」 「分かった。期待してる。」 1時間後、家について二人同時にため息をつく。 そのあとに、二人同時に見合う。そして、笑う。 なんだか、上条は朝のショックを埋められるような勇気がわいてきた。 今晩のご飯はハンバーグとコンソメスープだ。 「「ごちそうさまでした!」」 美琴に全て任せてしまっては悪いと思い、食器を運ぶことにした上条。美琴は、その様子をわが子のように見てしまい、最後にご褒美として、頭をなでるというところまで言った。 美琴が食器を洗い終えてエプロンを取ると、ベッドによりかかって座りテレビを見ている。このとき、上条は風呂に入っていた。 美琴がひとりでテレビを見ていると、風呂場のほうから走る音が聞こえる。とその時、美琴の前にツンツン頭が座ってきた。ちょうど、上条のお尻と美琴の太ももがくっついている状態である。この状態に気を良くした美琴は上条に抱きついて耳元でささやく。 「お姉ちゃんは、まだシャワー入ってきてないんだから、まだお預けね。フフッ」 そう言い残して、美琴は風呂場に向かった。 そして、上条はひとり部屋に取り残された状態になっている。そこに、静かに近寄る影が。上条はその存在に気付かないでテレビに夢中だ。 次の瞬間、なにがあったかわからないまま上条は驚く。 「つかまえた!さっきのお返し! どぉ?お姉さまのハグはどうなの? と~ま!」 「…」 「どうなのよ。うりぃ!うりうりぃ。」頬をすりよせてきた。 やわらかい肌といいにおいがする髪。少し、甘い香りがする唇…。 …チュッ! 上条は顔を真っ赤にした。 「おやすみ!寝るからな。」と上条は目線を合わさずに言う。 「電気消すからね。」と言いつつ、上条の寝るベッドの上に横になり後ろから抱きつくように美琴は寝る。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/上条さんが…ちっちゃくなりました。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1616.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/恋する美琴の恋愛事情 修羅場美琴の告白事情 「不幸だ……」 いつものようにお決まりの台詞を呟きながら、上条当麻は己が立場を呪うしかなかった。 「トウマ、トウマ。色んなオカズが沢山あるんだよ!これほど豪華なお弁当は初めてなんだよ!!」 隣に座るインデックスはそんな当麻の心情に気付くことなく目の前のお弁当に心奪われはしゃいでいる。 そう、目の前には和洋中幾種もの色とりどりのオカズが入ったお弁当が拡げられていた。 「日本人なら和の心。誰かの為にお弁当を作ったのは初めて。上条君、食べてくれる?」 「医食同源。中華には食事にも健康に気を配るという非常にありがたい心構えがある。上条当麻、心して食べるように」 「べ、別にアンタの為に作ったわけじゃないけど、せっかく作ったのに食べないともったいないでしょ。アンタもボーっとしてないで食べなさいよ」 そして、上条当麻の目の前にはまるで『私の弁当を食べないとわかってるわよね?』とでも言いたげな視線で睨みつけてくる3人の美少女がいた。 一人一人がそれぞれの美しさを持つ美少女であり、それぞれが確固たる意志を持った瞳で当麻を睨みつける。 「おかしい」と、当麻は首を傾げるしかなかった。昨日まで3人が3人とも嬉しそうにしていたはずだ。それなのに、どうして自分はまるで釜茹でされる直前の石川五右衛門のような気持ちにならなければいけないのか、当麻には全くもって理解不能だった。 「どうしてこうなった……」 白洲に座る罪人の如くその身体を委縮させながら、当麻はここに至る過程を思い出していた。 ******** 「……遊園地?」 御坂美琴は上条当麻の台詞に意外そうな表情で聞き直した。 「そ、今度新しく出来た室内型遊園設備への招待状ですよ」 そう言って自慢気に2枚のチケットを見せつける。確かにチケットには今度新しく開園する室内型遊園地の招待券と書いてあった。 いつものように学校の帰りに本来の通学路からは遠回りして、いつもの公園で上条当麻と会っていた美琴だったが、「そういえば」と当麻が取りだしてきたのがこのチケットだった。 「で、それを誰と行くのよ?」 自慢気に見せつけるそれを見ながらなんとなく不機嫌になる美琴。2枚のチケットのうち1枚は当麻が使用するとしてもう一枚の行方が気になる。まあどうせあのちびっこシスターなんだろうと予想が付いてしまうだけにどす黒い感情が表面化しそうになってしまう。 「ん、そんなの御坂に決まってるだろ」 しかし、予想外の台詞に美琴の心拍数が跳ね上がる。 「いやあ、小萌先生からこのチケットを貰った時はどうしようかと思いましたが、普段お世話になっている人へのお返しをしなさいと言われて、やっぱ御坂にも渡さないとなと思ったわけですよ」 「へ、へえ……」 なにか重要な事を言ったような気がしたが、すでに美琴の心拍数は跳ね上がり、血圧は上昇、まともな思考は働いていない。 「御坂を誘うなら白井とかも誘うべきなんだろうが、枚数的に御坂一人になっちまうのは申し訳なかったけどな」 「う、ううん!大丈夫よ!黒子の事なら問題ないから!!あの子はうん。全然まったく関係ないから!!」 もし白井黒子が聞いていたらショックのあまり卒倒するような台詞を吐くあたり美琴のテンパリ具合が尋常ではないのが見て取れる。当麻は当麻でいつもの如く超鈍感ぶりを発揮し、美琴が喜んでくれていると思い込み話を続ける。(まあ、実際、大喜びはしているのだが) 「それなら良いんだけどな。そういうわけで、次の日曜に行くからあけておいてくれよ」 「う、うん!絶対にあけるから!!予定なんか入れない!!」 折角の初デートなのだから、例え予定があってもキャンセルする。完全に美琴の心は舞い上がっていた。 「ふう、これで上条さんも一安心ですよ。皆楽しんでくれれば本当にチケットを配った甲斐があるというものですよ」 と、これまた意味深な発言を繰り返すのだが、やはり舞い上がった美琴の心はもう何も聞いていなかった。 そして、寮に帰っても喜びを隠せない美琴は黒子の前で当麻とのデート予定を激白(もちろん黒子用のチケットなどなく、二人っきりのデートである事も全て)。黒子がその場で真っ白に燃え尽きていたが、それさえも気にならない程に美琴は舞い上がりっぱなしだった。 「ふふん~♪何を着て行こうかな~」 などと制服着用義務さえ忘れている美琴の姿を見て、燃え尽きた黒子の灰はさらに風に吹き飛ばされていくのであった。可哀想に…… しかし、当日になって浮かれた美琴の心は急転直下し、地獄の底へと叩きつけられる事になる。何故なら…… 「トウマ、秋沙は判るとしても、なんで短髪がここにいるのかな?それにまた別の女性も……」 「上条君、どういうことなの?」 「上条当麻、どういうことか説明してもらえるか?」 待ち合わせした遊園地の入り口前で美琴が見たのは、上条当麻の姿だけでなく、白い修道服を着た少女、前に公園で見掛けた日本人形のような黒髪の少女、さらに大覇星祭で当麻の前で倒れた巨乳の少女達の姿だった。 「え?いや、だから、普段からお世話になっている人たちへの感謝の気持ちだって言ったじゃないですか」 自分のやった事の重大さが全く理解できていない当麻はあっさりとそう答えたが、その瞬間、吹寄のヘッドバッドが当麻の脳天へと、姫神のアッパーがみぞおちへと突き刺さり、とどめに美琴の電撃が全身に落ちる。 「な、なんで……不幸だ……」 パタリと崩れ落ちる当麻。もちろん、いつもの口癖は忘れなかった。 「自業自得なんだよ、トウマ。そして、まだ私の罰が残っている事を忘れないでよね」 そして、その言葉通り、数秒後意識を取り戻した上条はインデックスに頭から噛みつかれることとなった。まさに自業自得…… ******** 「ところでその制服、常盤台中学のものよね?なんで貴方みたいなお嬢様学校の子があんなバカと知り合いなの?」 前を歩く巨乳の少女が美琴に話しかけてきた。 『確か、吹寄制理さんだったっけ?』 見た目からかなり気の強そうな顔をし、当麻が好みそうなほど巨大な胸をした少女を見ながら、それはズルイな……などと美琴は心の中で溜息をつく。 結局、あれから解散するわけにもいかず、お互い自己紹介の後、5人で遊園地に入ったものの、気まずい空気は払拭されず沈黙がその場を支配していた。しかし、もともと吹寄制理と姫神秋沙の二人は同級生、しかも友達同士という事もあり、すぐに二人は会話を始めるのだが、どうしても年下であり、学校すら違う美琴にとってとても居づらいものであった。 「大丈夫よ。別に貴方が悪いわけではないから。どちらかと言えば乙女心を理解せずにこういう事をするあのバカに責任があるんだから、気にしないで」 「は、はあ……」 とはいえ、気易く当麻の事を「あのバカ」と呼んでいることが美琴にはなんとなく気に入らなかったりもする。 「彼は私と私の妹の命を救ってくれた命の恩人だから。全身全霊を賭けて私たちを守ってくれた人だから」 と、特別な関係である事を示すような言い方をしてしまう。 「ふうん」 しかし、吹寄はさほど気にする様子もない。まるで「そんなことは判っている」とでも言っているように美琴には感じてしまう。 「やっぱ、あのバカ無茶やってたのか」と悔しがるような呟きが吹寄の口から聞こえた。 「確か、御坂美琴さんよね」 今度はもう一人の黒髪の少女から話しかけられる。 「え、ええ」 一応返事はしたが、その少女-姫神秋沙は何かを考えるかのようにしばらく無言が続く。そして、数秒の後、彼女の口からは核心をつく台詞が美琴に向けて放たれる。 「上条君は目の前に苦しんでいる人がいたら助けずにはいられない人。私だってその一人。だから、それが特別にならない事は知っている」 そう、上条当麻と言う人間はそういう人間だ。それは美琴も理解している。 だからと言って、それを認めてしまえば、自分の存在さえも消えてしまうような不安感を感じてしまうのも事実だ。だから、いままで見て見ぬふりをしてきたのだ。彼の傍にいるインデックスという少女も同じく救われた側であろうという事実ですらも。 「まあ待て姫神。彼女はまだ中学生だ。自分の感情に戸惑いを覚えても仕方のない年齢だ。そう責めるものではない」 恐らく吹寄も悪気があったわけではない。そんなことは美琴も理解している。しかし、美琴にはどうにも我慢できなかった。当麻が高校生で自分が中学生であるという現実。この年の差のせいで美琴が当麻にまともに相手してもらえてないことを理解しているから、第三者にその現実を突きつけられた事に無性に腹が立った。 「そんな事!わかってるわよ!!でも、自分の気持ちに嘘なんかない!!私は本当に!!」 しかし、美琴はそこで言葉を止めてしまう。ここから先はこの場で言うべきではないのだと、判ってるから。 そして、それは他の二人にも理解できてしまったのだろう。最初に謝ってきたのは吹寄だった。 「すまない。その事を責めたつもりではなかったのだ。君に不快な思いをさせたのであったならば謝ろう。申し訳なかった」 そして、姫神もそれに続く。 「ごめんなさい。私も焦ってしまって、貴方を傷つけてしまった。本当にごめんなさい」 そんな二人の態度に美琴は自分を恥じることになってしまう。これが中学生の自分との違い。学園都市最強の7人のレベル5の第3位と言われても、結局自分は単なる子供なんだと痛感させられてしまう。 「おいおい、何があった?」 そして、このタイミングで当麻が割り込んでくる。 「吹寄、姫神、何があったんだ?御坂もなんでそんな表情してるんだ?」 そう、こいつはこういう奴だ。普段は全く自分たちの事を気にも留めないのに、苦しんだり、悲しんだりすると直ぐに来てくれる。それが有難くもあり、辛くもあった。 「上条、申し訳ないが、そこのシスターとちょっと先に行ってお弁当を食べれるような場所を確保しててくれないか。私達はちょっと話し合う必要があるようなのでな」 「ゴメン、上条君。私も吹寄さんと同じ。先に行っててくれないかな。すぐに追いつくから」 二人の真剣な表情に当麻は困ったような顔をしたが、「御坂もそれでいいのか?」と尋ね、頷くのを確認すると「わかった」と言って、その場を離れて行った。 インデックスだけは「なんで私を入れてくれないかは聞かないけど、シスターは迷える子羊には優しいんだよ」と、わかったようなわからないような言葉を残して去って行った。 「さて、では少しばかり本音で話をしようか」 吹寄のその台詞に美琴は力強く頷いた。 ******** そして、20分後、3人はお互いにすっきりした表情で当麻達のもとにやってきた。 心配していたようなことにはなっておらず一安心した当麻だったが、しかし、お弁当を広げた瞬間今度は当麻が困ることになった。 「ええと、どれから食べればいいでしょうか。上条さんは非常に迷います」 と、嫌な汗を大量に掻きながら、当麻は箸を持ったまま固まってしまう。 美琴の作った洋食も、姫神の作った和食も、吹寄の作った中華も、どれもが非常に美味しそうでどれから食べようか迷ってしまうのも事実なのだが、それ以上に”誰の”お弁当から手をつけるのか、それが問題になってしまっていた。 「上条当麻。まさか私の作ったものが食べられないというのではないだろうな?」 と吹寄が氷の瞳で睨みつけているかと思えば、 「上条君は和食が似合うと思う。是非食べるべき」 と姫神が真剣な瞳で見つめてくるし、 「ど、どれから食べても構わないけど、折角私が作ったんだから、ちゃんと食べなさいよ」 と真っ赤な顔で上目遣いに睨んでくる。 『3人とももしかして上条さんを苛める相談でもしてたんでしょうか?なんでこんなに心臓に悪いんでしょう?』 当麻はまるで蛇に睨まれた蛙の如く動けずにいた。 「トウマは、やっぱりトウマなんだよ。というか、トウマが食べないんだったら私が全部食べちゃって良いのかな」 などと相変わらず食欲魔人の如くな台詞を口にする。KYって言葉知ってますか? 「ええい!悩んでいても仕方ない!ここはこうすればいいんだ!!」 もう形振り構っていられないと判断し、完全に吹っ切れた当麻はあろうことかそれぞれの弁当から一品ずつを抜き取り一度に口の中に放り込んだ。 「バカなのか上条当麻!そんな事をすれば味も何も分からなくなるだろ!!」 「やりやがった、この野郎」 「あ、アンタってば本気でバカなの!?」 と、三者三様の反応を示すが、「美味い!美味いぞ、これ!!今まで食べた事の無い美味さだ!!」と当麻が涙を流して喜ぶと、3人とも顔を真っ赤にして、 「あ、当たり前だ。そのために作ったのだから」 「喜んでもらえたなら、嬉しい」 「ば、バカ。そんなに大喜びすんな」 恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうな顔をする。 逆にそれに対し機嫌が悪くなったのが一人。インデックスである。 インデックスは自分で調理などしないから同じ土俵には立てないが、蚊帳の外にいる現状に納得がいかなかった。だから、インデックスが取る手は一つしかなかった。 「トウマばっかりずるいんだよ!私も食べるんだよ!!」 と、当麻の先手を取りお弁当を食べつくす蹂躙作戦に打って出たのだった。 そして、自分たちの食べる分が無くなる事に慌てた、美琴、吹寄、姫神もお弁当争奪戦に参加。こうして賑やかな昼食は瞬く間に過ぎて行った。 ******** 「ねぇ、楽しかった?」 夕陽の差しこむゴンドラの中で、美琴は目の前に座る当麻に楽しそうに話しかける。 「そうだな。たまにはこういうのも悪くないよな」 当麻はそんな美琴を見て、やはり嬉しそうに答えた。 昼食の後、それぞれの希望するアトラクションを巡る事になり、吹寄の希望するジェットコースター、姫神の希望するお化け屋敷、インデックスの希望する屋台めぐりをそれぞれの希望者と当麻のツーショットで回る事になった。そして、最後が美琴の希望した観覧者だった。 これも希望者と当麻のツーショットで乗る事になり、今ゴンドラの中は美琴と当麻の二人しかいない。残りの3人は気を利かせて別のゴンドラに乗っている。 「なあ、3人で何を話してたんだ?」 当麻は気になっていた事を美琴に尋ねた。 実は他の二人にも同じことを尋ねようと思ったのだが、何故か口にする事が出来なかった。だから、美琴に聞くことにしたのだが、何故美琴には聞く事が出来たのか、当麻自身気が付いていない。 「大したことじゃないよ。ただ、自分たちの気持ちに向き合えてるかどうかの確認」 そう言って、それ以上の事は話そうとはしなかった。 そして、沈黙に支配されたゴンドラが丁度頂上に差し掛かった時、再び美琴は口を開く。 「ねえ」 ゴンドラに差し込む夕日が背後から美琴を光輝かせる。 それはまるで妖精のような美しさだと当麻は素直に感じる事が出来た。 「私がアンタの事好きだって言ったら信じる?」 そして、その言葉は魔法のように二人だけの時間を示す時計を止めることになった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/恋する美琴の恋愛事情
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1655.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/一端覧祭大騒動 東京西部を開発して作られた街、学園都市。 人口のおよそ八割を学生で占め、外とは20年以上差があると言われる科学技術を用いて、超能力開発などというものも行っている極めて変わった街だ。 外ではバケツのような清掃ロボットが徘徊し、風力発電のための風車がやたら多くあり、さらに自販機はゲテモノだらけと色々と外とは違っている。 しかしそんな街でも高い壁で区切られた外と同じく、少しずつ昇り始めた太陽の恩恵を受け、穏やかな朝の時間が過ぎていた。 「…………はぁ」 ここはそんな朝日が差し込む常盤台寮の208号室。 その住人のうちの一人、御坂美琴はカエルのパジャマを着たまま枕を抱き締め、重い溜め息をついていた。 「お姉様……こんな良い朝ですのに、そんな溜め息はやめてくださいまし」 「だ、だって……」 そんな美琴をやれやれといった感じで注意するのは同居人の白井黒子。 まだ朝早い時間という事もあってか、髪型はいつものツインテールではなく全て下ろしている。 いつもと違って少し大人っぽく見えるというのは美琴も気付いていたが、何か癪なので口には出さないようにしている。 「大方、例の殿方……上条さんと一端覧祭をまわりたい、という事でしょう?」 「う、うん……」 「それなら電話かメールで約束を取り付ければ良いだけでしょう。 そんなモジモジ悩んでいなくても……お姉様らしくないですわ」 美琴はまだパジャマのままだが、白井は朝の準備を整えながら会話をしている。 今日は土日でもなければ祝日でもない。学校もあるいたって普通の平日だった。 「そんな簡単にはいかないわよ! それに私ほら……フラれちゃったし」 「お姉様……」 急に少し暗くなった美琴の声に、白井は一旦朝の準備を中断し美琴の方を見る。 美琴は少し俯いて、枕を抱き締める力を強くしていた。 その様子はどこか父親が帰ってこなくて寂しがっている子供のようだ。 そう、御坂美琴はつい最近上条当麻に告白し、そしてフラれていた。 数日前、上条の事で脱け殻のようになってしまった美琴は学校帰りにフラフラと学園都市をさ迷うのが日課になっていた。 そしていつも辿り着くのはあの鉄橋。 自分はこんなにも上条に依存していたのかと我ながら呆れる美琴だったが、それを自嘲できる気力も起きない。 その日はいつも通り鉄橋から川の先……夕焼けに染まる海の方をしばらく眺めていた。そしてもう少ししたら寮へ戻ろう、そう思っていた。 周りの人間はそんな美琴の変化に皆心配していたが、それが上条のいない世界の美琴の『日常』だった。 そしてそれは美琴の『日常』を壊すようにやってきた。 美琴の後ろから聞こえてきた足音……誰のものかなんとなく分かった。 いや、というよりはそうあって欲しいという美琴の願望だったのかもしれない。 だがその後すぐ聞こえてきた声……それは聞き間違えようのないずっと想っていた者のものだった。 「何やってんだよ、お前」 上条当麻だった。 以前に自分を絶望の中から救いだしてくれた時と同じ台詞で現れ、また自分を救ってくれる。 美琴はそれがあまりに嬉しく、思わず泣き出しそうになってしまうのを懸命にこらえる。 しかし対する上条はというと、あの時と比べて心底驚いているようだった。 おそらくこんないつもの美琴を知っているからだろう。 上条はあたふたと「あの時はホントゴメン!」やら「わざわざロシアまで来てくれたっていうのに……」やら謝罪の言葉を並べ始めたが、美琴にはあまり聞こえていなかった。 美琴にはずっと言いたかった言葉があった。 それは「べ、別にたまたまアンタを見つけただけで……」などといういつもの素直になれない言葉ではなく……。 「このバカ!!」などという自分をここまで心配させた事に対する怒りでもない。 上条がいつもトラブルに巻き込まれるのは知っていたが、心のどこかでは最後には帰ってくる、そう思っていた。 しかしそれは間違っていた。上条は本当にギリギリの世界で生きていて、一歩間違えばいなくなってしまう。そう思い知らされた。 だから美琴は絶対に後悔しないように少しだけ自分に素直になることにした。 こうやって学園都市で上条と話す、そんな日常がかけがえのないものなんだと気付いたのだから。 美琴はうっすらと涙を浮かべながら上条を見つめた。 夕日に照らされたその顔は困惑の表情を受けべていたが、目の前にいるのは幻想でも何でもない上条当麻だった。 その事を再認識し、以前までの自分の『日常』が戻ってきた事を感じ、さらに涙が溢れだした。 美琴は止めようのない涙を隠すように少し俯き、そして……。 上条の胸に飛び込み、「愛してる」と一言告げた。 上条は抱きつかれた瞬間は「ぜ、零距離ビリビリだけはご勘弁を!!」などと見当外れなことを言っていたが、その後に続いた美琴の言葉に「……はい??」と固まった。 美琴は上条の胸に顔を埋めたまま状態のまま返事を待っていた。 というのも今の美琴は涙を浮かべている上に顔も真っ赤でとても上条に見せられるものではなかったからだ。 しかし上条が「え~と、ドッキリ成功!の看板はどこかな~」やら「ま、まさか精神系の能力者の仕業か!? そういえば常盤台には心を操るレベル5が……」などと言い始めたのを聞き、そうも言ってられなくなった。 美琴は恥ずかしさをこらえ顔を上げると、上条をじっと見つめて自分は本気だと怒った。 それを聞いた上条はここで一番の驚きの表情を浮かべたが、やがて目を閉じると「う~ん、う~ん」と唸り始め、なにやら必死に考え始めた。 そして返ってきた答えは……。 「えーと、悪い俺お前の事そういう風に考えた事なかったから……」 あぁ、やっぱり。それが美琴の心の反応。美琴はある程度その答えは予想していた。 今までの上条の行動を見れば、こんな言葉が返ってくるのはごく自然なことだろう。 後悔はしていない、してはいないのだが……。 やはりそれを直接言われると、やはりなにか苦いものが心に広がるのを感じた。 それでもそんな上条の申し訳なさそうな顔を見ていると、どこか暖かい気持ちにもなるのが不思議だった。 美琴は上条から離れ、涙をぬぐい 「じゃあこれからアンタを振り向かせていくからヨロシク!!」 と力強く宣言すると、一番の笑顔を見せつけた。 美琴としては諦めるなんて選択肢はまったくない。 それこそレベル1からここまで上り詰めたときのように、目の前に壁があるなら乗り越えればいいのだ。 上条はそんな美琴に圧されながらも「お、おう……」とだけ答えた。 美琴は上条のその中途半端な反応に不満を見せる様子もなく満足げにしていた。 その日の夕焼けに負けないくらい美琴の心は明るく、その表情は綺麗なものだった。 (そうは言ったものの……) 時は戻って朝の常盤台寮。 美琴は朝食のために白井が出ていった後も、部屋でうじうじとしていた。 そろそろ準備を始めなければ遅刻してしまうのだが……。 (冷静なってみると、『そういう風に見た事ない』ってのは大問題よね……。 振り向かせるとか言っておいて、どんな顔して会えばいいのか分からないってどうなのよ) 美琴はあの告白以来、上条に会っていなかった。 というより美琴が上条の通りそうな道を避けていた。以前までとはまったく逆の行動だ。 しかしこのままではいけない、それは美琴自身が良く分かっていた。 (だ~やっぱりこんなの黒子の言う通り私らしくないわ! とにかく今日アイツを誘う、それでいいわ!!) 美琴はバチン!と一発両頬を叩くと、勢い良く立ち上がり学校の支度を始めた。 良く晴れた穏やかな朝。美琴の勝負の日が始まる。 「またモヤシ!? そうめんといいモヤシといい、やっぱりなんかの魔術の一種!?」 「うるさいうるさい! 上条家の家計簿は火の車なんです!!」 とある学生寮の一室。 そこでは朝っぱらから食卓を巡ってちょっとした騒ぎが起こっていた。 主に文句を言っているのは、白いティーカップのような修道服(安全ピン付き)を着た銀髪碧眼の外国人シスター。 イギリス清教の誇る魔道書図書館、禁書目録(インデックス)だ。 しかし一般的には『美少女』というカテゴリに入るであろう、その良く整った顔立ちは今は不満げにむくれている。 そしてそのシスター相手に軽く涙目になりながら反論しているのがこの部屋の主であるいたって普通のレベル0の高校生上条当麻。 今まさに美琴を悩ませている張本人なのだが、本人もまた悩み多き学生のようだ。 「まったく、インデックスといい御坂といいどうしてこうも上条さんを困らせるんですか!」 「むっ、短髪が何!? ちょっと詳しく聞きたいかも!!」 「だ~なんか変なとこに飛び火したああああ!!」 思わず美琴の名前を出してしまい、さらにややこしい事にしてしまった上条。 もちろんあの事をインデックスに言うつもりはない。 告白なんか他の人に言うべきものではないだろうし、何よりそれでインデックスに丸かじりにされるのは目に見えている。 (そういやあれ以来御坂と会ってねーな……) 実は顔を合わせにくいのは美琴だけではなく、上条も同じだった。 いくら超鈍感男であってもあれだけ真正面から告白されれば意識せざるを得ない。 学校の帰り道もバッタリ出会せたりしたらどうする、今まで通り普通に話せるのか、などと少しそわそわしていたり。 そんな自分に「中学生かよ……」と呆れたりもするが、今までこんなことがなかったのだから仕方ないなどと勝手に結論付けたりもしていた。 「ちょっととうま! 聞いてるの!?」 「えっ、あぁ聞いてるぞ!! いいか、だからモヤシはだな……」 「今はモヤシじゃなくて短髪についてなんだけど!?」 「えぇ……まだ続いてたんですかそれ……」 「だいたいとうまはいつもいつも……」 なおも追及するインデックスに曖昧にはぐらかす上条。 徐々にインデックスの怒りのボルテージが上がっていくのは目に見えていたが、上条としてもあの事を言うつもりはない。 さてこれはどうしたものか、食べ物で釣ろうにも金が……などと困っていると、 ピンポーン!と突然上条家にチャイムの音が鳴り響いた。 「おぉ! 誰か来たみたいだぞインデックス! じゃあこの話はまた今度な!」 「あっ、ちょっととうま!?」 助かったとばかりに上条は学生鞄を掴み、慌てて玄関先まで走っていく。 後ろで「帰ったらじっくり話してもらうんだよ!」などと聞こえてきたような気がしたが、空耳だということで処理した。 (しっかしこんな朝っぱらから誰だ?) このナイスタイミングにチャイムの主には感謝している上条だが、ふとそんな事を疑問に思った。 こんな朝っぱらからうさんくさい訪問販売なんてものもないだろうし、いつも一人で登校しているので、「一緒に学校いこ!」などと女の子が訪ねてくるなどというステキイベントもない。 そんな事を考えた上条は扉の向こうの未知の存在に多少ワクワクしてきたのだが、 「おーす、カミやん。ちょっと話いいかにゃー?」 そこにいたのは隣人の土御門元春という、なんともひねりのない結果だった。 「なんだ土御門か」 「親友に対して何だとは酷いぜい」 上条はなんだか拍子抜けして溜め息をつくが、土御門はいつも通りヘラヘラしている。 上条と同じく土御門の方も既に制服姿で、アロハシャツの上に直接学ランを着ているのだが、さすがにそろそろ寒いんじゃないかと上条は思っていた。 「それで、一緒に学校いこうってか? どうせもう舞夏の手料理を分けてくれるなんてビッグイベントもないだろうし」 「ははは、前にあんな事になってさすがに俺も同じ過ちは犯さないぜよ。 今日はちょっとした『お仕事』の話だ」 「………………」 「いや~そんなあからさまに嫌な顔をしても向こうは待ってくれないぜい?」 土御門が言う『お仕事』。 わざわざ上条に言ってくるという事はそれはほぼ確実に魔術関連であり、さらに危険な可能性も高い。 大覇星祭の件やフランスの件など、上条は今までの経験からその事を良く分かっていた。 「……で? 今度はどんな魔術師が攻め込んできて世界の危機なんだ?」 「分からない」 「は?」 それでも放っておけないのが上条であったが、土御門のなんとも間抜けな返答に目を丸くして固まる。 二重スパイの情報通である男がこんなにあっさり分からないなどと言うのは珍しかった。 「今回は情報が少なすぎて、向こうの素性も目的もさっぱりなんだにゃー。 ただ何らかの方法で学園都市に侵入したっぽい……てとこだ」 「おいおいおい! アバウトすぎ!! てかいい加減ここも魔術師侵入しすぎだろ! セキュリティはどうなってんだよ!」 インデックスから始まり神の右席まで多種多様な魔術師の侵入を受けてきた学園都市を本気で心配してみる上条。 確かにどの魔術師も一癖も二癖もある者ばかりだったが、インデックスは意図せずに入ってしまった事や、テルノアが「甘い」などと言っていた事からどうしてもここの安全面を疑ってしまう。 「まぁまぁ、なんだかんだこの街とオカルトは対極の位置にあるにゃー。 だから対策もしにくい……てのがあちらさんの言い分みたいだが、うさんくさいもんだ」 土御門は首を少し動かし、何やら遠くの方を見るようにするが上条には何をしているのか良く分からないようだ。 実は土御門の見ているのは「窓のないビル」なのだが、一般人にはあまり理解することもできないだろう。 「……? まぁとにかくそのお仕事ってのは侵入者の魔術師を探すのを手伝ってくれって事か? けどこの右手は人探しにはなんにも役に立たねえだろ」 「いやいや、そうでもないぜい。カミやんはそれの価値を軽く見てるにゃー。 つまりそれがここに存在している、それだけで十分役に立つって事だ」 「はい? どゆこと?」 「カミやん、あの戦争の裏話ってのはこっちの世界じゃ意外と広まってるんだぜい? つまり神の右席のトップがあんな事をしてまで手に入れたかったモノがここにあるって事は……」 「……狙いは俺。つまりエサになれってか」 土御門の言葉を引き継ぎ溜め息混じりに答える上条。 確かに今までの侵入者達を思い出してみても、狙いは俺もしくは禁書目録(インデックス)というのが多かった。 つまりわざわざこちらから探さなくても向こうから勝手に現れる。そこを狙うということだろう。 「……ん、まてまて。それってインデックスのやつも危ないんじゃないか? 俺アイツ置いて普通に学校なんて行っちゃっていいのかよ?」 「禁書目録はイギリス清教の人間だ。そっちの方で護衛がつきますたい。 心配すべきはむしろ科学サイドの人間の方ぜよ」 「なっ、そっちの人間にも手を出すつもりかよ!!」 戦争というものは起きてしまったが、これまではそれを回避するために科学と魔術の交戦は避けられていた。 それが今ではこうも変わってしまったのか、と上条は焦りを隠せなかった。 「向こうの狙いはいわゆる『上条サイド』全体にあると見ていいと思うぜい。 こっちの世界でも今まで以上に危険な存在として警戒さているからな。 それで、カミやんの周りの科学サイドで力を持っているのは誰かにゃー? 一番に狙われるとしたらそこぜよ」 「そりゃこっちで力を持った知り合いっていったら、レベル5の一方通行や御坂……っておいまさか」 ここで上条は土御門の言わんとする事が予想でき、固まる。 考えてみればそれは十分あり得ることだ。何より『前例』がある。 そしてそんな上条の様子を見て、土御門は珍しく真剣な表情になる。 「一方通行は問題ないだろう。バードウェイから話を聞き、今や魔術にも理解がある。実際に魔術師と戦った経験もあるしな。 しかし超電磁砲の方はどうだ? 確かに魔術との接触がなかった訳ではないが、本人はその存在をまるで知らない」 「つまり……危ねえのは御坂」 「そうだ。だが彼女に魔術の話をしてこちらの世界に引き込むのは、カミやんとしても避けたいだろう? だからカミやん…………一端覧祭は彼女と一緒にいろ」 「…………は??」 土御門の最後の言葉に上条は思わず真剣な顔を崩し、なんとも間抜けな声をあげてしまった。 しかし今まで魔術やら侵入者やらの話をしていて、結論が「女の子と一緒に一端覧祭を回れ」だったらそんな反応も仕方ないのかもしれない。 その一方、相変わらず土御門は真剣な表情なのでなんとも奇妙な空気が漂っているような気がした。 「え、いや、なんでそうなる??」 「恐らく向こうが狙ってくるのは、警戒が一番薄くなる一端覧祭中だ。大覇星祭の時のようにな。 そしてそんな中彼女と一緒にいて一番違和感がないのはカミやんだ」 「そ、そうかもしれないけどよ……」 「ん? 何か問題でも……ハハーン」 すると上条の動揺に土御門は何かに気付いたらしく、真剣な表情を崩してニヤニヤし始める。 上条はそんな土御門を見てかなり嫌な予感がした。 土御門はプロのスパイで、禁書目録争奪戦、三沢塾、絶対能力進化実験など様々な事件を知る人物だ。 それならばひょっとしたら先日の御坂との一件も既に知っているのではないか……と思ったのだ。 「あれか、常盤台のお嬢様と一端覧祭デートなんてクラスの奴らに知られたら……なんて考えてるのかにゃー? まぁそこは諦めるしかないぜよ。大人しく制裁と『中学生に手を出したスゴい人』の称号を受ける事だぜい」 「え、あぁ……ってその心配もあるのかぁぁぁあああああ!!!」 一瞬あの事までは知られていない事にほっと安堵する上条だったが、新たに判明した障害に頭を抱え込む。 そして瞬間的に上条は、一端覧祭後の上条裁判における裁判長の吹寄制理の冷ややかな表情に男共の恨みの視線、姫神の魔法のステッキまで鮮明に想像する。 「……不幸だ」 「まぁまぁ、女の子のために体張るのは男の役目だぜい? わざわざ遠回りして説明したんだから、『嫌です』は通用しないのは分かってるだろ?」 「はいはい……この上条、姫を守るためにその身も削る覚悟ですよっと……」 「その息だにゃー!」 上手く話をつけられた土御門に、問題山積み状態な上条。 学校へ行こうとエレベーターに向かうその足取りは対照的なものだった。 太陽も高く昇ったお昼頃。 学園都市にしては珍しく既に多くの学生が街に繰り出している。そして木材などを持っている者が多い。 今は戦争関係で延期になった一端覧祭の準備期間だった。 「はぁ……やはりこれは念動力者(テレキネシスト)の方が適任でしょう……」 そんな昼間から学生で賑わう大通りで大能力者(レベル4)の空間移動能力者(テレポーター)、白井黒子は一人ぼやいた。 その両手は様々な木材やら工具やら入った大きめの袋で塞がれており、疲労によりその端正な顔立ちも歪んでいる。 学園都市の有名校、通称「五本指」の内の一角である常盤台中学もまた、これから始まる一端覧祭の準備に追われていた。 (さすがに疲れましたわ……ちょっと休憩しましょう) 白井は近場にあったベンチに腰かけると、袋を脇に置く。 そして高級そうなハンカチを取り出すと、額の汗を拭い始めた。 こんな普通の動作でもどこか上品に見える所はやはり常盤台生といった感じか。 常盤台は強能力者(レベル3)以上から成る高位能力者達の集まりだ。 買い出し一つにしても、いくらでも効率良く済ませる事ができる能力者はいるのだが、任されたのはテレポーターの白井だった。 その理由としてはやはり、重いものを持っていても高速で移動できる事にあった。 白井の連続テレポートはタイムラグ込みにしても、時速200kmを超える……だが。 (さすがにこんなに何度も連続テレポートしていると堪えますわ……) 買い出しも一回では済まなく、白井はもう何回も第七学区中の店と学校を往復していた。 そして疲れというのも、走った後に直接肉体にくるものではなく、頭からくるものだ。 11次元を扱うテレポートは、普通の能力よりも演算付加が大きく、外部からのちょっとした衝撃により演算不能にもなってしまうデリケートなものである。 試験勉強などで長時間集中した後の疲れ……そんなものに似ていた。 (というか仮にもそこそこ名の知れた学校のはずですのに、何でテレポーターがわたくししかいないんですの) 他に同じテレポーターがいれば白井の負担も減るだろう。 しかし超能力者(レベル5)を二人も抱える常盤台であっても、テレポーターは白井黒子ただ一人。 まぁ学園都市に58人しかいない珍しい能力なので、どちらかというとポピュラーな能力を伸ばす常盤台タイプではないのだが……。 白井本人は別にそれを誇りとも思っていなく、むしろ能力について話す相手がいないと不便に思っていた。 9月には珍しく同系統の能力者とも会う機会があったのだが、危うく殺されかけた事からあまり良い相談相手にはならなそうだ。 (それにしてもさすが第七学区。人の数が凄いですの) ふと顔を上げて道行く人々の顔を眺め始める白井。 去年までは第十三学区の小学校に通っていたので、ここまで多くの学生が街に出ている光景はまだ珍しいものがあった。 制服もそれぞれ違ったものばかりで、存在する学校の数も相当のものだという事が分かる。 そして白井本人はあまり気付いていないようだが、その中でも常盤台の制服というものは目立つらしく、チラチラと白井を見ている者も多かった。 (お姉様……ちゃんと上条さんをお誘いになれたのでしょうか) 道行く人の中に学生カップルらしき者達が目につき、ふとそんな事を考える白井。 朝の美琴の様子はまさに乙女といった感じで、そこらの男なら即落ちてしまう、そう思うほどだった。 以前までの白井ならそんな美琴のそんな様子を見ようものなら、ハンカチを噛みちぎり、上条への恨み辛みを延々と口にしていただろう。 しかし今はそんな事もない。 あの戦争が終結してから美琴は目に見えて生気を失っていた。 白井がどうしたのかと尋ねても、ただ首を振るだけ。 それでもしつこく問い質した結果、原因は上条の不在である事。そして美琴が心に秘めた想い。それを知る事ができた。 美琴の上条に対する想いは以前からうっすらとだが気付いていた。 しかしいつかそれを美琴本人の口から告げられた時、自分はどんな行動をとってしまうのか白井は少し不安にも思っていた。 だが実際は、意外にも冷静に相槌を打っている自分がいた。 いや実は心の内では上条に対する怒りが渦巻いていた。 しかしそれは美琴を取られたという嫉妬からくるものではなく、こんなにまで美琴を悲しませた事に対するものだった。 白井は改めてハッキリと、自分は御坂美琴の事が大好きなんだと知る事ができた。 だからこそ美琴が想いを寄せる上条にはその隣に立っていて欲しい……つまりはそういう事だった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/一端覧祭大騒動
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1705.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある上琴の未来物語 告白編 あの告白のあったクリスマスから1ヶ月が経った。 正月は上条が「補習だぁ~」と言い一緒に過ごせなかった。 それ以外にもバタバタしていたのでなかなか一緒に過ごすことが出来なかった。 そして今日はやっと暇が出来たので2人でデートへ出掛けることにした。 今はある学区の遊園地に来ている。 「はぁ~不幸だわ。なんでなのよ・・・。入場待ち1時間ってなんなのよ。」 「仕方ないだろう。今日は日曜日なんだから。もうちょっとで順番回ってくるから。」 この時の時間は10時。 すでに2人は1時間も並んで待っていた。 その待ってる間もずっと御坂は、上条の腕を放すことは無かった。 「もうすぐね、当麻。」 「ああ、そうだな。」 「こんな風に待っているのもよかったわよ。だって当麻と一緒に居られるんだもん。」 「なんだよ急にコロっと態度変えあがって。まあ俺も楽しかったぞ。美琴。」 「ふ、ふにゃ~」 「おい、漏電はやめてくれよ。」 「だって~。」 と舌を出して笑っている。 「今日はいっぱい楽しもうね。当麻。」 「ああ。初デートだもんな、美琴。」 「ねぇ、キスしてよん。」 「ちょっ、お前こんなとこな人目があるところで、もし知ってる人でも居たらどうすんだよ。」 「いいじゃない、1回ぐらい。そんなに私とキスするのが嫌なの?」 「そんなわけないだろう。でも、ほら・・・人いっぱいいるしさ。」 「いいじゃん、私達の愛を見せ付けてやりましょうよ。」 なんなんだこのバカップルと周りの痛い視線も気にせず公然とイチャツク2人。 いつしか2人の周辺から人が居なくなっていた。 「ようやく入場出来たわね。」 「はぁ、結構疲れた。」 「なに言ってるの、今日は1日中遊ぶわよ。ねぇ当麻、最初は何に乗りたい?」 「あぁ、何でもいいぞ。美琴一緒に居れば何でも楽しよ。」 「本当に、本気で思ってるの?」 「勿論ですとも。この上条さんが好きな女の子の前で嘘はつかないですことよ。」 「ふにゃ~」 「おい、こんなところでふにゃ~ってなんなよ。」 「なっ、何でもいいじゃない。」 「はいはい、可愛いよ美琴たん。」 「たん言うな。」 「じゃあ最初にメリーゴーランドにでも乗りますか?」 「当麻って意外とメルヘンなのね・・・。違うわよ、最初はジェットコースターに決まってるでしょ。はいはい行くわよ。」 「俺の意見は無視ですか、そして俺ジェットコースター苦手・・・」 上条が不吉な予感ほさせながら御坂がグイグイ引っ張っていく。 ・・・ ジェットコースターの入り口に着いた2人。 このコースターは、超高速が出ると有名だった。 「うぇ、まじで。これ乗ったら絶対に上条さん死んじゃう・・・。」 「当麻意外とこういうのダメなのね。大丈夫よ『男は度胸』でしょ。さぁ乗った乗った。」 ☆ ジェットコースターを乗り終えた2人はベンチに腰を下ろしていた。 「確かにちょっと怖かったけど面白かった~。」 「・・・・・・」ウップ 「久しぶりに乗ったけど絶叫してスッキリした。」 「・・・・・・」ウップ 「お~い、当麻どうした・・・ってちょっと当麻!」 ジェットコースターが苦手な上条は真っ青な顔をしていた。 「ふ、不幸だ、だから上条さんは先に言ったじゃないですか。」ウップ 「本当に大丈夫?」 「だ、大丈夫じゃ・・・ちょ、ちょっとトイレに。」ピューン (えぇ、当麻あんなにジェットコースター苦手だったの・・・) (数分後) 「いや~、まったくご心配お掛けしました。」 「本当よ、ビックリしたんだから。」 「ごめんごめん。でももうお願いだからジェットコースターは勘弁を、御坂さん。」 「わかったわよ。まさかこんなに苦手だとは思わなかったから。もう少し休憩する?」 「いいや大丈夫だ。よし、次は何処行くか?」 「そうね・・・、いっぱいあって迷うわね。」 「じゃあさ、お化け屋敷行かない?」 と上条は不気味な笑みを浮かべる。 「い、いいじゃないの。当麻ビックリしすぎて失神したりするんじゃないわよ。」 と手を取りグイグイ引っ張って行く。 しかし・・・ (どうしよう・・・、私一番お化け屋敷苦手なのよね・・・。) ―――――――――――――――――――――――――――――――― お化け屋敷の前に着いた2人。しかし2人は唖然としていた。 「ここのお化け屋敷、広すぎないか・・・。」 「『所要時間最高120分』ですって、『最高』ってなによ。」 そう、このお化け屋敷は世界一広いお化け屋敷だった。 屋敷内ではさまざまなルートがあり扉の選択によって大きくルートが変わる構造になっていた。 一番最短ルートを選べば30分で出て来れるが、最長ルートを選んでしまうと2時間掛かってしまうと言う何とも鬼畜な構造だ。 「俺もちょっと怖くなってきた。不幸体質な上条さんは『120分ルート』にはまるのが見え見えじゃないですか。」 「ななな何言ってるの、さぁ行くわよ。」 「美琴大丈夫か?、声震えてるぞ。」 「だ、大丈夫よ。」 と2人は意を決して中へ入っていった。 「本当の廃屋に入ったみたいな感じがするな・・・。」 「・・・・・・。」 「大丈夫か美琴?」 「・・・・・・。」 「お~い。」 「手・・・握っててよ。当麻。」 「ああ、手を握るぐらいならお安い御用ですのことよ。」 と上条は手を差し出す。 握った手はとても震えていた。 ☆ 「結局120分ルートだった。流石にこれはきつすぎるだろう。」 「・・・怖かった、怖かったよ。」 御坂は泣きながら上条の胸へ飛び込んできた。 「大丈夫、ていうかここお化け屋敷だぞ。本当のお化けなんて出てこないと思うぞ。」 「それども怖かった。不安だった。」 と上条は泣いている御坂の頭をそっと撫でてやる。 「ハハハ、美琴はいつもは気でかいけどこういう時はめちゃ泣き虫だよな。」 「うるさいわね。120分もあの中いればこうなるわよ。」 「はいはい。俺が居るから大丈夫ですよ。」 とさらに上条は美琴のことを強く抱きしめた。 その時御坂のお腹が鳴った。 御坂は頬を赤らめた。 「そりゃあんだけギャーギャやりゃお腹減るよな。よしお昼にしようか。」 「そ、そうね。さっきよさげなレストランあったから行きましょう。」 しかしそのレストランで散々弄られる羽目になるとはこの時は知る由もなかった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 2人は窓際の席に案内された。 「流石に日曜日だから混んでるわね。」 「でもすぐに座れたからよかったんじゃないか?」 「そうね。本当にお腹すいた。」 2人はメニューを指しながら喋っていた。 「私は、このハンバーグセットチリトマトソース添えで。」 「俺は、シーフードドリアセットで。」 「当麻、女子みたいね。」 「いいじゃないの。上条さんだってたまにはこういうの食べてみたいですことよ。」 暫くすると料理が運ばれてきた。 「うわ~、おいしそ。」 「超久しぶりだわドリアなんて。」 と料理の感想を言い合っている。 「おいしい、ちょっと辛いけど。」 「熱っつ、俺猫舌だからな。」 「当麻、やっぱ女子っぽい。」 「そうでせうか。」 「ねぇ当麻、そのドリアちょっと頂戴。」 「ああ、いいぞ。」 と上条は皿を差し出す。しかし 「そうじゃないでしょ、ほら。」 と御坂は顔を前に出す。 「はあ、なんだ急に?」 「本当に当麻ってだめね。こうしたら『あ~ん』に決まってるでしょ。言わせんじゃないわよ。」 と御坂は顔を真っ赤にさせる。 「ああ悪かったよ。はい、あ~ん。」 「あ~ん・・・、おいしいわね、ていうか全然熱くないじゃない。」 「そうか、上条さん的には結構熱いぞ。」 「じゃあ私も当麻に。はい、あ~ん。」 「あ~ん、って辛!!結構辛くないですか?」 「えぇ~、こんなんで辛いとか、当麻はだらしないわね。」 とこのバカップル2人は他人の目も気にせずやっている。 すると不意に 「あれ御坂さんじゃないですか?」 「ふぇ、ああ初春さんに、佐天さんに、く黒子ぉ!?。」 「お姉さまビックリしすぎですの・・・ってあ~~~~~」 「「どうしたんですか」」 と初春と佐天が同時に驚く。 「おおおおおお姉さまなぜその殿方とご一緒で・・・」 「ああ、だってデート中だもん。当たり前でしょ。」 と御坂は平然とした顔で言い放つ。 「「「で、デ~ト」」」 「そうよ、あたし達付き合ってるんだから。ねぇ当麻ぁ。」 「そ、そうですね。」 と色気付きながら上条の名前をよんだもんだからちょっとドキマギしながら上条は答えた。 「ふぇ~、御坂さん大人ですね。」 「いつの間に彼氏作ってたんですか、御坂さん?」 「お姉さまが・・・私のお姉さまが。」 と3人はそれぞれの感想を言いながら自分達が座っていた席に腰を下ろす。 「ちょっ、なんであなた達ここに座るのよ?」 「勿論御坂さんから色々聞くためですよ。あ~私初春飾利と言います。」 「私は佐天涙子です。あ、こら初春、メモ用意するな。」 「わたくしは白井黒子。お姉さまのルームメートですの。私も意を決して聞くですの。」 「俺は上条当麻です。」 と上条はちょっと困ったような顔をして頭を掻いている。 (はぁ、折角の当麻とのデートだったのに・・・。) 「でも話を聞く前に注文していいですか?」 「へ?、ああいいわよ。」 「私はこの『宇治抹茶パフェ』で。初春はまたいっぱい頼むの?」 「そうですね。じゃ、『ビッグサンダージャンボマウンテンパフェ』で。」 「私は、ドリンクバーだけでいいですの。やけ飲みしてやるですの。」 と注文を終えまた話は御坂と上条の関係についての話題に戻る。 「それで、2人はいつから付き合ってるんですか?」 「1ヵ月前からよ。」 「もしかしてクリスマス?」 と佐天は身を乗り出して聞いてくる。 「そ、そうよ。当麻から告白してきたの。」 「そうえばイブの日やけにお姉さまが変でしたの。まさか告白があっただんて・・・。」 「上条さんはなんで御坂さんのことが好きになったんですか?」 「お俺?・・・そうだな美琴はそのへんの女の子より、より女の子らしいと思うんだよ。心やさしいしな。」 と上条は御坂の頭を撫でる。 「お~流石。御坂さんにベタ惚れなんですね。」 と佐天が身を乗り出して聞いてくる。 それに上条は頬を赤くしながら、 「そうだな。気づいた時には好きだったかな。」 「ふぇ~」 「御坂さんは上条さんの何処が好きですか。」 「わ、私?そうね、当麻はとにかくかっこよくて、頼りになって、心やさしいところね。」 御坂も頬を真っ赤にして答える。 「とにかく2人ともラブラブなんですね。」 「ゴン、ゴン、ゴン」 「白井さん顔ドラムやめてください。」 「ひぇ~~、私のお姉さまはもうすっかり身も心もその類人猿の虜ですのね。」 「え~!、御坂さん身もですか?」 「え、ないない。まだあるわけないじゃない。」 「そうですよね、まだですよね。」 「それでいつの予定なんですか?」 「こら初春、変な事聞くな。でも私もちょっと興味が・・・。」 「あ~、私のお姉さまが・・・・・・。」 「し、白井さん・・・。あ~あ倒れちゃったよ。」 「大丈夫よ。そのうち勝手に起き上がるわよ。黒子なら。」 「お、おい。美琴本当に大丈夫か?」 「平気平気。ほっといて。」 「それでそれで・・・―――」 ―――1時間後・・・ 「御坂さん、今日はどうもありがとうございました。」 「いえいえ、気をつけて帰ってね。ほら黒子も早く帰りなさい。」 「わかりましたですの。とにかく学生なので節度を持ったお付き合いをお願いしますの。」 「大丈夫よ。中学生が高校生と一線を越えちゃったなんてこと起きないから。」 「本当ですの、とにかくお願いしますわよ。」 「わかった、わかった。じゃあね、初春さん、佐天さん。」 「「「さよなら~(ですの)」」」 2人はレストランから出て園内を歩いていた。 しかし根堀葉堀聞かれた2人はげっそりしていた。 「当麻、大丈夫だった。」 「ああ、大丈夫だ。しかしあの3人はなんであんなに聞きたがるんだ?・・・」 「わからないわ。なんかごめん・・・。」 「気にするな、俺は特に何も思ってないから。それより次何乗る?」 「そうね・・・――――」 このあと2人は様々なアトラクションに乗った。 ――午後5時 「じゃあ最後にあれ乗らない?」 「ああ、観覧車か・・・、いいぞ。」 と2人は観覧車へ向かって歩いていく。 もちろん2人の手は恋人繋ぎのままで。 観覧車にいざ乗ってみると2人はかなり緊張した。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 沈黙が続く。 すると不意に、 「俺まだ夢みたいだ、美琴とこんなに近くにいれるなんて・・・。」 と上条は明後日の方を見ながら話す。 「なによ急に。私も夢見たいよ。」 「もう少し早く気持ちに気づくべきだったよな。」 「私ももう少し早く素直になりたかった。」 2人は真っ赤になりながらだんだん顔が近づいて来る。 「ねえ当麻、キスして。ここなら誰も見てないし。」 「いいのか?」 「いいにきまってるでしょ。ほら早くしなさいよ。もちろん唇にしなさいね。」 「じゃ行くぞ・・・」 夕日が映えるとある観覧車のゴンドラの中で2人の陰は重なった。 観覧車を降り、遊園地を後にした2人は家路についていた。 「今日は楽しかったよ。また2人で来ようね。」 「そうだな。美琴が平気なら上条さんはなにも言いませんよ。」 「ねえ、当麻の家に行ってもいい?」 「へっ、だめだだめだ。じぇったいだめだ。」 「なに噛んでるのよ。いいじゃない彼女なんだから。」 「とにかく今日はだめだ。」 「わかったわよ。そんな剣幕で言わなくても・・・」 「すまない。」 「いいわよ、じゃあ私こっちだから。」 「ああ、またメールしてくれ。」 「わかった。じゃあ気をつけて帰ってね。」 寮に向かいながら上条は焦っていた。 (美琴を家に招きたいが・・・、インデックスがいるしな・・・。) (インデックス俺達が付き合ってるとかいったらどうなるかな・・・。) 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある上琴の未来物語